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▼一斉攻撃って憧れるよね

「み、翠くんっ……もう、これ以上は……」
「まだッス……名前先輩。まだ、俺……諦められない!」
「そ、そんな……!」

も、もうやめてくれー!
とポケモンのノリで突っ込んでいきたいけど、私は的屋のオッサンじゃないので景品と翠くんの間に入ること能わず。むしろ的屋のオッサンは、良いカモである翠くんと私を見てニヤニヤしていた。

うん? どういう状況か?

「俺、諦めきれないんスよ……! だってあれは、地方限定版・はにゃっしーの巨大人形――!」

お分かりいただけただろうか……。
あの面倒くさがりな翠くんが、何度敗北を喫しても食い下がる屋台。……射的である。もちろん、彼が空前絶後の射的マニアという訳ではなく、その屋台に置かれた景品が問題だったのだ。
ゆるキャラグッズだ。しかも、限定品。

「で、でもさ、私たちさっきから結構頑張って当ててるけど、デカすぎるから全然倒れないし……私のお財布も死ぬし……」
「死ぬときは一緒ッスよ、名前先輩……」
「こんなヤンデレ翠くんは嫌だー!」

(射的の)銃を片手にその発言、見た目だけなら非常に不穏である。

くっ……そういえば千秋と奏汰と一緒に一年生たちとの合流場所で待ってた時、あの人たち射的の屋台を見て「アッ(察し)」みたいな顔してたわ! ちくしょーハメられた! 

千秋め、何が「俺はお前たちの為に買い出しに行ってきてやろう……☆ 名前は高峯たちと仲良く遊んできてくれ! おお、力仕事を手伝ってくれるか南雲! さすがは流星ブラック!」だ! 

奏汰め、何が「ぼくは 『きんぎょ』をすくいにいく やくめがあるので……。しのぶ は がまんづよそうだから、ついてきてください……♪」だ!

完全に自分の財布の平和を守りに行ってるじゃん! ここに可愛そうな女子生徒が財布の危機だよ! 助けてヒーロー!

「はっはっは! 俺を呼んだかっ、名前!」
「あおいほのおは、しんぴのあかし! あおいうみからやってきた〜♪
りゅうせいぶるー! しんかいかなた……☆」
「おお! さすがは奏汰だな、いついかなる時でもヒーローであることを忘れない! 遅ればせながら俺も叫ぼう! 口上を! 高らかに! 赤い炎は、」
「私は資本主義の奴隷、流星(気持ち的に)ブルー、名字名前!」
「銃口を向けるな! や、やめろ名前、俺たちは景品じゃないぞ!?」
「なまえも、ぼくといっしょに ブルーがしたいんですね……♪」

とりあえず二人に銃口を向けた。残り弾数とこの恨み、どちらが大切かといえば……ぶっちゃけ恨みを晴らすほうが優先かな! ほら、私アヴェンジャーとか言われてるしネ!

「名前はもう復讐者なんかじゃない、おまえは俺の仲間だろう……☆」
「そんないい話風にまとめてもダメ」
「なまえ どうかぼくらを おこらないで……ごめんなさい……」
「うっ……か、奏汰くん……」
「俺が説得しても一ミリも動かないのに何故だ!? でも奏汰、チャンスだ! 押して押しまくれ!」
「ちあきも ごめんなさいしましょう」
「うむ! すまないな名前!」
「まず私の三千円返してから話をつけようじゃないか」
「「えぐい……」」
「仲良しかよ! そうだよエグいよグロ画像並みに酷いよ、見る!? 私の財布の中身!」

何ちょっとドン引きしてんだよ。
こっちはもはや翠くんがゆるキャラを愛しているのか憎んでいるのか分からなくなりそうだよ。だってさっきから銃でめちゃくちゃ撃ってるもん。

「ちょ、ちょっと隊長! 置いてかないでほしいっすよ〜!」
「深海殿! 名前先輩の呼び声が聞こえたって、どういう原理でござるか〜!?」

彼らがやってきた方角から、残る一年生まで集合してきた。鉄虎くんは両手に無数のビニール袋を下げ、忍くんは両手に無数の金魚の入った袋を抱えている。なるほど、千秋も奏汰もそこそこ散財したらしい。

とりあえず鉄虎くんと忍くんにも今の状況を伝えた。あの人形がそろそろ呪いの藁人形的なモノに見えそうだという感想と共に。

「ふむふむ。確かに、あれは大物でござるな……」
「うーん、翠くんと名前先輩の二人じゃ、さすがに厳しそうッスね。単純火力の問題かも?」
「えぇ……そうかなぁ……」
「名前先輩! 早く撃ってほしいんスけど」
「ひぇぇ……みどりんこわい……」
「そのあだ名はやめて欲しいッス」
「ウッス。名前、いきまーす!」

ええい、あとは野となれ山となれ! 翠くんの為なら(財布が)死ねる!

「いや、ちょっと待て!」

千秋の声が、あたりに響いた。
翠くんと私が同時に振り返り、残る三人の視線も千秋に集中する。

「そうだ、単純火力の問題だ! どうしてここにあと四人も居て、おまえたちは二人で散ろうとする! 俺も力を貸そう!」

いや、散りたくて散ろうとしてるわけでは……。とツッコミの性分がうずうずと疼くけど、言っていることは正しい。
二人で撃つよりは、大勢で撃ったほうが獲物もぐらつく。

「ぼくも がんばります〜♪」
「俺も協力するッス!」
「仙石忍、推して参る!」

「千秋……みんな……!」

射的のオッサンに小銭を渡し、千秋が隣に来た。ほかのメンバーも、静かに銃を構える。

「……はは。スチャラカな集団と思ってたけど……今日だけは、感謝してるよ」

翠くんの呟きは、しっかりと全員に聞こえていた。

「さぁ、行くぞ! 『流星隊』! そして名前!」
「いっせ〜の〜で……うてぇ〜♪」

人形が、宙を舞った。



「よかったね、翠くん」
「はい……ふふっ」

大きな人形を抱え、翠くんは嬉しそうに微笑んでいる。数十分前までそいつを撃ち続けていた人間とは思えない、慈愛に満ちた眼差しで人形を見つめている。私は正直、今日の夢にそいつが出そうだ。

他のメンバーは、おのおの千秋に買ってきてもらった食べ物を頬張っている。私も、千秋の買ってきてくれた綿あめを食べている。おいしい……綿あめ(400円)おいしい……。はは、涙がとまらねえぜ……!

「あれ? 隊長はどこに行ってるんスか?」
「そういえば、姿が見えないでござる」
「え? ほんとだ、どこに行ったんだろ。さっき千秋にたこ焼き頼んだし、買いに行ったかな」
「あ、かえってきましたよ〜♪」

奏汰が指さす場所を見ると、千秋が手を振りながら駆けてきた。手にはスマホ以外何も持っていない。

「どこ行ってたんスか? トイレとか?」
「いや! さっきたこ焼きを買いに行ったら、『MaM』の斑に会ってな! 先ほどの俺たちの活躍を写真に撮ったと言っていたから、画像を送ってもらったんだ!」
「千秋、肝心のたこ焼きは?」
「あっ」
「もー、あとで一緒に買いに行こう。千秋のおごりで」
「わ、分かったから、睨まないでくれ……」

ふんっ。まだ千円分も奢ってもらってないんだからね!
なんて言ったら、千秋に笑われた。

「その『がぞう』をみせてほしいです」
「そうでござるな!」
「どうでもいいけど……まぁ、グループに投げたらどうッスか。名前先輩も招待しときますね」
「あ、サンキュ」
「隊長、こっちに来て画像開いてほしいッス!」
「ああ、もちろんだ!」

千秋が私の隣に座る。彼と私を囲むように、ほかのメンバーが集まった。斑とのトーク画面から、千秋が画像をタップする。

「こ、これは!」
「私たちの……」
「うしろすがた?」
「いや――違うでござる」
「……これは、翠くんの人形を」
「手に入れた瞬間……なんだけど……」

どう見てもはにゃっしーの処刑映像です、本当にありがとうございました。

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