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俺の毎日をデルモ弟が提供するわけがない!
「泉ごめんな……今月こそは出ていくから、心配しないでくれ……!」

とか言って、俺のアパートがフィーバー(物理)した悪夢の前期開始の四月から早半年。もうすでに大学は後期! 相変わらず弟の家に寄生している俺氏! やだこのお兄ちゃんクズ過ぎ……!? と本気で自分でも思いはじめたので、頑張って今日も家探しをしようと思うんだが。

「名前くんは気にしなくていいんだよぉ? むしろ俺の家から出ていこうなんて、変な気は起こさないでねぇ〜?」
「変な気というか普通の行動では……」

やれやれ、相変わらず兄に甘い弟だ。いつまでも男兄弟が家に居たら邪魔くさいだろうに、なぜ俺を居座らせようとするのか。心配しなくても出ていきますってマジで。

「朝起きれば泉の手料理を食べ、服を脱げば泉が勝手に俺の今日の服装を決め、一コマからの日に電車の定期を持って出ればいつの間にか泉のバイクに乗って登校していて、家に帰れば泉の手料理、そしてお風呂(なぜか強制的に一緒)……ダメだ、兄貴をダメにするデルモ弟だ……!」

おはようからおやすみまで泉で提供される生活から脱却したいんですがそれは。人間としてダメになるし、男としても何か重要なものを取りこぼしつつあるので。

という訳で、思い立ったが吉日だ。

「よし、泉! 俺、今から出かけるから!」
「え? デート!?」
「ふぇ??」

え、今の文脈、どの辺が泉を連れてく感じだった?
というか俺が今から行こうと思ってる場所、不動産屋なので……むしろついてきてほしくないというか……ごにょごにょ。

「うふふ……名前くんとデートかぁ。大丈夫だよぉ、俺が完璧にエスコートしてあげるから……♪」
「……泉、不動産屋に興味は」
「名前くん……」
「ないね! あはは、俺も無い!」

泉のおめめからハイライト消えたので、お兄ちゃん秒速で発言を取り消しました。ちくせう、今日も不動産屋に足を踏み入れられなかった……!



泉の誕生日、明日では?
ということに今気づくクソ兄貴です。いや、ほんとは覚えてたよ? だけど連日のお風呂攻防戦に加え、今度は寝室まで一緒にしようとか言い出した誰かさんのお陰で、すっぽり頭から抜けてたんだ。弟の重すぎる愛情表現から身を守る防衛術を考えてたんだから、是非もないよネ!

「……とはいえ」

さすがに同居させてもらっている身分で、誕生日プレゼントという名の貢物をしないほど、俺は失礼ではない。

なんやかんや、泉には感謝してるのだ。
なぜ兄に世話を焼きたがるのかは意味不明だが、どちらにせよ色々と尽くしてくれているのは分かってる。体洗ってもらう必要もないし夜一緒に寝てくれる必要もないけど。けど!

「今あいつ、服見てるんだよな? ちょっとほかの店行ってプレゼント探してこよ……」

オシャレすぎて俺には近寄りがたい服屋から離れ、泉にメッセでその旨を伝えた。何がいいのか分からないので、まずはケーキ……

「と思ったけど、あいつ絶対ケーキとか食わねえじゃん」

くっ……! わが弟ながら面倒くせ……いや、意識高い……!
とりあえず定番のケーキがぶっ潰されたので、他のものにしよう。もうなんかこう、実用的なものを送ったほうが喜ばれるんじゃないかな。例えば調理器具とか、料理の皿とかさ……。

「ん?」

ふと雑貨屋が目に留まった。
ああ、なんかプレゼント用のかわいい皿とかくらいならあんじゃね? と軽い気持ちで入って、店の中をぐるぐるしてみる。うん、普通に皿とかあるし、便利グッズ的なものもある。これらを適当に何個か買って、ラッピングしてもらえば……

「……お。これいいかも」

マグカップだ。よくある、イニシャルが刻まれたもの。
俺が居候してから、マグカップとかも自然に共用になっていたが、さすがに兄貴に自分のコップ使われるのが嫌とは言わないだろう。けど、あいつもとは神経質だし、ほんとは我慢してたりしたのかもしれない。

という訳で、きちんと分けられるイニシャル入りのマグカップを購入しようと思うのだ。

「よっし! これに決めt」
「名前くん!!!」
「うぎゃあああ!?」

いきなり超大声が耳元に響いたので、こちらまで大声で叫んでしまった。マグカップを落としそうになったが、何とかキャッチ。あ、あぶねえ……割るところだったじゃねえか!

「なにすんだよ、泉……」
「名前くんこそ、俺を置いて一人で買い物なんて……!」
「いや、だって俺待ってるだけだったし良いかなあと」
「……俺、名前くんと買い物するって決めてたのに……」

イケメンが悲しそうな顔をするだけで、周囲の同情の視線が集まるのはなぜなのか。まるで俺が泣かせたみたいになるの良くない。慌てて泉の肩をぽんぽんとたたき、顔を上げさせる。

「ご、ごめんな泉。ただ俺、お前の誕生日プレゼントを買いに来ただけなんだ」
「……え?」
「ほら、これ! 泉の『I』のイニシャル入ってるマグカップだからさ、これならお前専用のコップにできるだろ!」
「俺のために、プレゼント……?」

泉の顔がかぁぁ、と赤くなる。おいおい、兄貴のプレゼントごときでその反応、彼女が出来たらどうすんだよ。爆発しちゃうぞ、知らんけど。

「そういう訳で、機嫌直してくれよ。ほら、買いに行くぞ」
「名前くんっ……! お兄ちゃん感激なんだけどぉ!」
「お兄ちゃんは俺だから!!」

ええい、このお兄ちゃんごっこをやめさせるのが当面の目標だな……なんて思いながら、元気になってくれてよかったと安心する。
やっぱ弟を泣かせるのは、兄としてよろしくないし。

「あ、ねぇねぇ名前くん?」
「ん、なに?」
「もう一個買ってほしいんだけどさぁ……?」
「おー、いいよ。スペア用意すんの?」

嬉しそうな笑顔を浮かべた泉が差し出してきたマグカップ。俺のイニシャルが刻まれていたので、ひぇっ……となったが、まぁ明日誕生日だし許した。


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