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呼吸を放棄して、

柔らかな体を、背後から抱きすくめる。耳の裏を舐めれば、びくびくと体を震わすことも承知済み。それでも誇り高き『Knights』の女王は、必死で唇をかんで耐えていた。

「れ、零さんっ、なに」
「ん? 我輩の愛し子は、そこまで鈍くもないじゃろ」
「あっ、」

ちゅ、と音を立てて首筋に口づける。僅かに舌を触れさせると、大仰にその肩が跳ねた。それとなく彼女の脚の間にも、自分の脚を滑り込ませて力を籠めれば、いよいよ悲鳴じみた嬌声をあげる。
堕ちろ、とダメ押しのように囁く。昔の高圧的な口調は、彼女を焦らせるには十分だった。

「だっ、駄目、ここ部室だし……」
「わんこも葵君たちも、今日は用事があると言っておったしのう」
「い、いや、でも……」

割と雄弁な彼女らしくない、良い淀み。何かある、と読み取れない零ではなかった。抱きすくめた体をくるりと反転させ、向き合う形をとった。

「どうした、我が愛し子よ?」
「え……」
「憂い事があるのだろう? 我輩に申してみるとよいぞ。おぬしと睦み合うための障害ならば、大体のことは解決してやろう……♪」

その持ち合わせている理由によっては、ちゃんと引き下がる程度の良識もあるし、より苛め抜く程度の可逆心も持ち合わせている。

そういう零の考えがあちらにも読み取れるのだろう、あからさまに顔を引きつらせて口をきゅっと閉じている。そんなにつれなくされると、さすがの零も苛立ってしまう。顎をくいと指でむりやり上げると、じんわりとその頬が赤く染まった。

「い、いや……その、か、仮にですよ? 急に人が部室に訪ねてくる可能でいもあるから……」
「……ほう?」
「そ、そのー。例えばクラスメイトとか……ね?」
「なるほどのう。騎士様のうちの誰かが迎えに来る可能性があると」
「うぐっ!」

分かりやすすぎる反応だ。そもそも、放課後に彼女を迎えに来るといえば、高確率で『Knights』なのだ。レッスンのプロデュースと称し、彼女をやたらと引き抜いていく。
もちろん、恋人の零としてはまったく面白くない――どころか不愉快ですらある。
見つかるのを恥じる彼女は可愛いが、案じているのは彼女の騎士と考えるだけで――黒い何かが臓物を焼くような感覚がするのだ。

「なるほどのう」
「れ、零さん……怒ってる?」
「うむ。まぁ、そうとも言うかの」
「あっ、ちょ、待っ――」

後頭部を掴み、噛みつくように唇と唇を重ね合わせる。躊躇なく舌を差し入れれば、自分のものより一回り小さなそれが逃げ惑う。上顎の裏、小さな歯の羅列を丹念になぞっていけば、次第に掻き抱いた体は抵抗力を失い、くたりと吸血鬼に身を委ねてくれる。
普段ならそれとなく彼女の呼吸を助けるように、唇を分かりやすく離してやるのだが、どうにも今日はその気分になれない。
勝手に自分のタイミングだけで僅かに呼吸をすれば、当然溺れるのは彼女の方だ。
か弱い力で胸板を押されれば、さすがに一度は離れてやる。銀色の糸が、二人の間を薄くつないでいた。

「はっ、はぁ……く、くるしい」
「可愛いのう」
「や、も……んっ!」

泣き出しそうな顔で零のキスを受ける彼女が愛おしい。できる限り優しくしてあげたい、甘やかしたい、というのが普段の零の欲求なのだが……。

(大事な我が愛し子、我輩が大事に虐めてやろう)

哀れを誘うその涙も、被虐の喜びに滲む瞳も、清廉な騎士たちに囲まれながらも、僅かに零れ落ち始めた色の香も。呼吸さえも。貪欲な魔物に貪られてしまえばいい。ただ一人、朔間零だけに。



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