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Knights the Phantom Thief

Step.32 遊木真

『Knights』の共同部屋に、珍しくも来客があった。

何やら泉がひどく騒いでいるので、仕方なく司が紅茶を入れて客人に持っていくと、そこに居たのは年若い金髪の青年だった。青いフレームの眼鏡が印象的で、どこか態度はおどおどとしている。

こういう人間を、泉が歓迎しているというのも珍しい。どういう関係なのだろう、と思いながらこっそりと遠目で見ていると、同じように嵐や凛月もその様子を見守っていた。レオだけは、泉の近くに行って客人を歓迎している様子だったが。

「あ、あの……貴方が『Knights』のリーダーさんですか?」
「んぁ? あー、おれだよ! セナじゃなくておれに用事ってことは、仕事の依頼か?」
「は、はいっ……! あの、お願いします、『Trickstar』の皆にも頼めないことなんです」

『Trickstar』? どこかで聞いたことがある、と思った司に、嵐が寄ってきて声をかけた。

「最近結成された【Thief】のチームの一つよ。あの子、見覚えあると思ったら……遊木真って子ね。『Trickstar』のメンバーで、情報収集が得意なの。でも、最近お家の都合で、一時田舎に引っ込んでるって話だったんだけど……?」

嵐は狙撃手として『Knights』に所属しているのだが、その実彼は情報屋や掃除屋との交渉も行う、いわゆる外交係だ。それゆえ、一番『Knights』の中では組織の情報に精通している。

「で、その『Trickstar』とかいう新参者のチームの子が来て、セッちゃんはあんなにテンション上がってる訳……?」
「なんか昔からの知り合いなんですって。この組織に関係するより前の。弟分みたいなものって、本人から聞いたわよ?」
「にしては、あの方一度も瀬名先輩の方を見てませんが……?」
「どう見てもビビってるよねぇ、あれ……」

どうやら泉と遊木くんとの間で悲しいすれ違いが起こっているらしいが、今は三人ともそんなことを掘り下げるつもりはなかった。

口を挟まず遠巻きに泉たちの方を観察していると、会話はとんとん拍子に進んでいた。

「実は、僕の住んでた田舎で、あるとんでもない事件が起こってまして。それが実は、あの犯罪コンサルタント・名字教授が関わっているんです。『あの女』以上にヤバい相手が、あんな田舎町になんの用なんだって思うんですけどね……」
「おまえの故郷って、〇〇町だろ? あそこは、離れに軍事研究施設があるからな。そんなに不思議なことでもないんじゃないか」
「あはは、さすが月永さんですね……そうなんです。あの軍事施設は森と地雷原に囲まれています。普段から何をまき散らしたり埋めたりしているのか分かったもんじゃないんですけど、最近じゃこんな噂まで流れているんですよ」

――曰く。
離れの軍事研究施設では、生物実験が行われており。
最近、その生物実験で逃げ出した生き物が、町の傍まで来ているのだと。

「誰も信じてくれないんですが……僕の父は昔、その生き物に殺されたんです。あいつの見た目は今でも覚えてる……」
「化け物が居るって言いたいのぉ? ゆうくんったら、相変わらずロマンチストが過ぎるよねぇ」
「おいセナ。ちゃんと聞け」

いつになくレオは真面目だった。確かに、宇宙人が好きな彼なら、生物実験で生まれた生き物にも興味があったり……するのだろうか?

泉の発言でビクついた遊木も、レオの庇うような言葉に再び言葉を紡ぐ勇気を得たようだった。

「空洞のような巨大な目、まるでモンスターみたいな四つ足の黒く大きな体、口からは炎を……父さんはそいつに八つ裂きに……」

かすかに青ざめた顔が、その見た目の異様さを連想させた。しかし、泉の言う通り、あまりにも現実離れした特徴。司たちも顔を見合わせた。

「それを見たのは何歳のとき?」
「六歳です……」
「父さんが殺されたとき、おまえはどこにいた」
「研究施設を囲っている森の中……いまだに狩猟をやってた町なんです」
「ちなみに、その怪物もうわさじゃなくて、伝承で昔からあるんだよねぇ。領主の飼っていた、人を喰う化け物の話……」

泉がまた口を挟む。どうやら彼らは同郷で、遊木の父の死も知っているらしい。

「だから、正直記憶違いだと思うよぉ? 昔聞いた伝承が、小さかったゆうくんの中で、パパが死んだ正当な理由として無理矢理結びつけられただけなんじゃないの〜?」
「そ、そんなことないよっ!」

遊木は必死に否定している。しかし、遊木を歓迎していた泉すらこの反応なのだ。きっともう何回も、いろんな人間にこの反応を返されてきたのだろう。それをいきなり他人の『Knights』に信じろと言われても、無理な話で……

「いや、おれは信じるぞ!」
「はぁ!? ちょっと王様、何言って……」
「ユ〜キくん? の話聞いてて、ちょっと引っかかる部分があったんだよ。おまえ、さっきなんで父さんを殺したものを『モンスター』って表現した?」
「え?」
「違和感があるんだよ。別にいまおれたちは英語で会話している訳じゃない、ここは英語圏でもない。順当に喋れば、泉みたいに『化け物』とか『お化け』とか『怪物』とかが出てくるだろ。それをわざわざ英語で『モンスター』って表現したからには、何かその生き物には英語と……あるいは『モンスター』って表現そのものと、結びつくモノがあるはずだ」

言われてみれば、確かにそうだ。

レオのこの独特の観点、切込み方は意外と鋭い。聞くものが聞けば「偶然だろう」で済ましてしまうところだが、深層心理や表に出ない記憶に結びついているのかもしれない。どんな些細な事でも、見落とさない……それが彼を天才【Thief】たらしめる理由なのかもしれない。

要するに、うっかり見落とすことをしないから、怪盗として捕まったり、対象を逃したりするヘマをしないのだ。

「相変わらずの観察眼ねぇ、王様? アタシたちもまだまだってことなのかしらぁ?」
「うーん、俺はどうもその噂より、軍事施設がきな臭いと思うんだけど……? まぁ、そこに行ってみる価値はあるかもねぇ」
「ふむ……Leaderの指摘は正しいのかもしれませんし、それに○○町と言えば美味しいPizzaで有名ですよね……」
「かさくんは何目当てで引き受けようとしてるわけぇ? 俺は反対だよぉ、第一こっちは『あの女』との対決でいっぱいいっぱいなの。王様が早く選んでくれないから、ずーっと緊張状態で待機なんですけどぉ」

泉は苛立ったような声でそう言った。
そうだ。上司から催促されたあの日から既に一週間が経過しようとしていた。そろそろレオからのお達しがあってもいいはずなのだ。

肝心のレオはといえば、にこにこ……というよりニヤリと笑っている。

「だから、この依頼を引き受けてやろうって言ってるんだろ〜?」
「はぁ? 意味わかんないんですけど?」
「セナのことだから、ユ〜キくんの区別くらい付けられると思ってたんだけど……意外に無理だったな」
「!?」

遊木の顔が剥がれた。
と書くとグロテスクだが、違う。遊木の顔をかたどった特殊マスクが外された、のだ!

「なっ――お姉さま!?」

司の叫び声が、決定打だった。

「こんばんは」

にこり。
かくして、騎士と犯罪コンサルタントは対面する。