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ATMは忘却の彼方

「一郎〜、見てこれ! このグッズ完成度高くない!? 良き!」
「うおお……このポーズを選んでくるあたりが分かってんな公式……うっし買おうぜ! っていやこれ中身ランダムじゃねえか! ざっけんなよ箱買いだ!」
「ひゅ〜〜! 一郎男だね! よっ! 大統領!」
「おうよ! 男に二言はねえ、買おうっていったら買うんだよ……推しをな!」

本当にお前はオタクの鏡だよ一郎……なおグッズを買うだけが愛ではないからね! 愛情表現の一つとしてグッズがある! 財力=愛ではない! 勘違いしないように! と心の中で自戒しておこう。

「ちょっと待ってろ。ロット買いするには手持ちが足りねえ。一回降りてATM行くぞ」
「おうとも! てか私たちで割り勘して、それぞれの推しを山分けでいいんじゃない?」
「お前……恩に着るぜ……来来世にツケといてくれ……」
「前前前世かよ! さあっ、そうと決まったら行こう一郎! 今すぐ!」

感涙している一郎の手を取ってアニメイトを出る。さあATMへいざ行かん! としたその瞬間だった。

「お〜、誰かと思えばクソ野郎の山田一郎くんじゃね〜か! いっちょ前に女とデートか?」
「左馬刻。女という言い方は良くない。大体お前は、先ほど彼女を名前だと真っ先に目視しただろう。なかなかの察知能力だったぞ」
「理鶯! テメ〜は余計なこと言わず黙ってろ!」
「理鶯の言う通りですよ左馬刻。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら――と言うではありませんか」
「お前俺様の名前とかけたのか? ぶっ殺すぞ銃兎?」

お、おわ〜〜! どうしてマットリ! 正しくは『MAD TRIGGER CREW』の皆さんがこんなデパートの中に! 特に理鶯さん!

と思ったが、よく考えればここはヨコハマディビジョンでした。これはうっかり。いや笑い事じゃないけど。

「はあ? なんだよ左馬刻、用がねえなら突っかかってくんじゃねえ。言っとくが、今日は死んでもてめえとはやり合わねえぞ?」

そこまで言うと、一郎は急に私と目を合わせてニヤリと笑った。嫌な予感がする……と私が冷や汗をかいた瞬間、一郎が私の肩をガッと抱き寄せた。

「俺はこいつとデート中なんでな。女にヒプノシスマイクぶちかますほど、お前もクソ外道じゃねえんだろ?」
「…………おい名前」
「ひぃっ!? な、なんですか左馬刻さん!?」
「このクソアホ一郎が言ってることは本当か? 嘘ついたら殺すぞ」
「ひぇ……もうムリ死ぬ……デッドエンドだ……」
「すぐに死を受け入れるな名前。小官はお前をそんな柔な兵士に鍛え上げた覚えはないぞ」
「いやいつ鍛え上げたんですか理鶯。あのもやしっ子は貴方の訓練についていけるはずないでしょうに」
「銃兎さん酷い!」
「事実を言ったまでですが……まあ見て居なさい。こうやってグダグダと三人で会話を回す事――それこそが、貴方の命を救う手段です」

どういう意味? と銃兎さんの発言に首を傾げていると、理鶯さんがスッと腕を伸ばして私の身体を引き寄せた。そのまま彼が違う方向を指さすので、それに従い振り向くと……

「ああん? てめえいい加減にしろよ。人の妹分に手ぇ出してただで済むと思ってんじゃねえぞゴラァ!」
「はぁ? 妹分? 一年程度しか名前と付き合いねえくせに笑わせんな! 腹痛ぇなあ左馬刻ィ!」
「あーうぜぇ! 年数しか自慢できねえクソ雑魚男が粋がりやがってよぉ! 今日ここでお前をぶっ殺す!」

もう少しでピー音の入りそうな罵りも聞こえてきそうなほどの白熱ぶり。マジでヒプノシスマイク取り出そうとしてるぞあの人たち。

「ひ、ひぇえ……なんで私をネタにしてそんなに言い争えるんですか……仲良いんですかねあの人たち……」
「あれを仲が良いと言うのなら、人類皆家族と言えるのではないだろうか」
「というか、貴方がネタだからこそ……いえ、さすがに野暮ですかね」

銃兎さんは何やら納得したようにうなずくと、私と理鶯さんの方に向かってにこやかに微笑んだ。

「それより、あのバカどもの争いの終結を待つのも面倒です。どうでしょう、ここで少し休憩しませんか? ヨコハマ屈指の、素敵なカフェにご案内しましょう」
「良いんですか銃兎さん!?」
「ええもちろん。理鶯も来い、美味い飯がある店だ――ぜひ、是非料理の参考にしてほしいですね」
「おお、それはいいな。小官も同伴させていただこう」

そうと決まれば善は急げ。ATMのことを私も、そしてもちろん一郎も忘れ去ったまま、ヨコハマの一日は過ぎていくのであった。




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