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アリスのお茶会は手芸部にて 

「ふぃー、やっぱりなんだかんだ言っても、女の子のかっこのほうが楽だ〜!」

男装の為にサラシで締め付けられている胸や、スタイルをよくするために宗が取り付けたコルセットを外すと、一気に開放感が来る。

「あはは、やっぱ騎士の姉さんは『兄さん』の格好よりも、こっちのがかわええよ」
「ありがと、影片くん。あ、これどうすればいい?」
「ん? ああ、コルセットはおれが預かるさかい、こっちに着替えてなぁ」

コルセットを手渡し、代わりに渡されたのは、紺色を基調としたワンピースだった。手芸部の部室に居る限りは、こういった宗の作る新作の服を着る、というのがルールだ。女性がアイドル科にはいない為、着せ替え人形に私は最適らしい。

ちなみに今の私は下着とインナーだけ、という格好だけれど、今更影片くんも私も動揺しない。

何せ一番最初の採寸の時に、宗に全部ひん剥かれ、デリカシーもくそもなく隅々まで見られたからだ。あの時はさすがに私も動揺したし、影片くんは真っ赤になってオロオロしていたけれど、慣れって怖い。

「影片くん、今日は宗は居ないの?」
「あー、いまはなずな兄ィの振り付け練習やってるから、ここには居らんよ? お師さんに用事やった?」
「いや、ウィッグを黒にしてくれって言おうと思ってた程度だから」

袖を通しながら会話をする。うん、やっぱり宗の作る服は着心地がいい。やっぱり彼は、芸術家としても天才なんだなぁとぼんやり体感できる訳だから、彼の服に袖を通すのも貴重な経験の一つだろう。

コルセットを棚にしまい込んで、影片くんはパタパタとポットの方へと走っていった。どうやらお湯が沸騰したらしく、鼻歌を歌いながら手慣れた様子でカップを出していく。

「あ、千夜先輩は紅茶でええやろか?」
「うん、構わないよ。ありがとね」
「ええんよ〜♪ おれ、お茶作るの好きやさかい」

こぽこぽと小気味良い音を立て、お湯が注がれている。こんなに着心地のいいワンピースを着て、お茶が出るのを待つ……というのは、なんだかお嬢様みたいでそわそわしてしまう。

お茶をつぐ音が終わったら、今度は何やら別の棚が開かれる音がした。何かな、と思って振り返れば、ちょうど影片くんと目が合った。

「お待たせして堪忍なぁ。これ、姉さんに見せたかったんや」
「お、これは……飴ちゃん?」

影片くんはカップ二つと、何やら飴玉のたくさん入った瓶をお盆に乗せて戻ってきた。

「せやで! 見てみて、これ、チェスの駒の形しとるんよ〜」
「えっ? おお、ほんとだぁ」

影片くんがそう言って、びりびりと個包装の袋を一つ破ると、中から出てきたのはポーンの形をした飴だった。色は赤色で、イチゴの匂いがする。
私が素直に驚いた反応を見せると、私以上に素直に嬉しそうな顔をする影片くんが笑った。

「びっくりした?」
「したした! こんなのどこで見つけてきたの?」
「外国のモノが売ってあるお店があってん。で、そこで見つけてきたんや! 千夜先輩を驚かせたろうと思って買ったんよ〜♪」
「あはは、影片くんったら可愛いなぁ」
「ええ? 俺べつに可愛くないもん」

ちょっと不満そうに頬を膨らませる影片くん。「そういう所が可愛いぞ〜」と頭をわしわしすると、「も〜やめてえやぁ」と言いながらも頭をすりすりしてくるのだから、全くもって可愛い以外の感想が浮かばない。

「なぁなぁ、一個開けてみたって〜?」
「そうだね。何が出るかなー」
「騎士の姉さんは、やっぱナイト引き当てなあかんやろ!」

二人で瓶の中身を覗き込む。個包装は、中身が見えないように白色と黒色のお洒落なデザインをしている。指で適当に瓶を混ぜ返し、これという一個を選んだ。

「お、これは……」
「クイーンやな! なんや姉さん、運ええなぁ。一個しかない形当ててしもうた」
「はは、今日は良いことあるかも! ……って言っても、もう放課後だけど」
「なんだ、やけに騒がしいと思えば……千夜も来ていたのかね」
「お師さんっ! お帰んなさい〜♪」
「お邪魔してまーす」

扉から入ってきたのは、この手芸部の主こと斎宮宗だった。なずなはどうしたのかと思ったけれど、先回りするように「仁兎は帰った」とだけ宗が言った。その手には布地が抱えられていたので、おそらくレッスンが終わったあと、手芸店へ寄ってきたという感じだろう。

「ふむ。その紺色は、やはり少し顔色を暗くしてしまうな……もう少し明るい紺に変えたほうがよさそうだ」
「えっ? そうなの? 普通にきれいな服と思ってた」
「おれから見たらべっぴんさんやけどなぁ」
「まったく。君たちのような粗忽者は、色彩感覚すら鈍いのかね」

そう言いながら宗は布地をテーブルに広げた。今言った通りの、私が着ているものよりやや明るめな紺色の生地だった。

「あ、待ってえやお師さん! せっかく戻ってきたんやし、休憩したって〜? いまお茶注ぐからなぁ〜♪」
「結構なのだよ」
「まぁまぁそう言わず、この飴でも食べて」
「はぁ? そんな俗悪な色のモノを食べられる訳ないだろう」
「ただのイチゴ味の飴なのに。あ、でも幸運を運んできたから、ただの、ではないね」
「幸運を?」

怪訝な顔で宗が首を傾げた。私は影片くんに向かって同意を求める。

「ねー、影片くん」
「おん! 姉さんの幸運が、お師さん連れてきてくれたなぁ!」
「阿呆なのか、君たちは」

そう言いつつ、穏やかな目をしている宗を見逃す私ではない。
こぽこぽと、また幸せの音が響くのを聞きながら、宗の鋏が布地を裁断する音が響くのを待っていることにした。


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