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『Eve』の二人が泊まっているホテルにお邪魔している。
駅周辺のビジネスホテルではなく、割と高級そうなホテルでびっくりだ。きっと資金が有り余っているのだろう……という予測はつく。

「おわー! ふかふかなベッド! いいないいな、これで寝るの?」
「千夜さん、言っておきますけど……子供じゃないんすから、ベッドのスプリングで遊ばないでくださいよぉ……?」
「うぐっ……」

バレたか。
いや、だってこんな、まるで王様が寝るようなベッドだよ? 跳ねたくなるのが人情じゃないかな?

「ホテルのラウンジで話したほうがいい気もするけどね、万が一『Trickstar』側の人間に聞かれたらやっかいだね! だから、僕の取ってる部屋で我慢してほしいね!」
「なんなら護衛に、誰か一人くらいは夢ノ咲の人を連れてきてもよかったんすけどね。情報を漏らさないような奴や、『Trickstar』や【SS】に興味がないやつとか」
「え? 護衛なんかいらないよ?」

この場には日和とジュンくんしかいないのに。そう思いながらベッドに腰掛けると、ぽふんとお尻が跳ねた。わぁ、すごいスプリング。

「……千夜ちゃんがどうしてあの男の群れで生きていけるのか分からないね? よっぽど英智くんが睨みを利かしているんだね?」
「英智がどうかしたの?」
「別になんでもないね! さぁ、お喋りしてないで仕事に専念しようね!」

そういって、日和はキャリーケースの中から数枚の紙を取り出してきた。おそらく……

「企画書?」
「その通り。ちょっと気にくわない毒蛇が作ってくれてね。まぁこれに沿って進行すれば、『Trickstar』をへし折るくらいは簡単にできると思うね」

毒蛇? なんのことだろう……とは思ったけれど、とりあえずは中身を見せてもらうほうが先決だ。

「見せて貰ってもいい?」
「はいどうぞ!」

日和は投げ出すように企画書を此方に寄こした。慌ててキャッチして、少ししわになりかけた部分をピンと伸ばした。ジュンくんがため息をつきながら、私の隣に座る。

「すいませんね、おひいさんが投げやりで。オレがかいつまんで説明するんで」
「あっ、本当? ありがとう」
「ええ。んで、まずその一枚目は【サマーライブ】の概要なんで、そこはあんま重要じゃないっすね。後で読んでください。で、二枚目が、宣伝方法について」
「宣伝方法」

二枚目を見る。
細かく色々指定がしてあったが、ざっと見ると最早この場所でやることはほぼないようで、事前に根回しがしてあるらしい。

「なるほど……あのゲームのテストプレイも、宣伝のうちだったのね」
「そういうことっす。ここはアウェイっすからねぇ……『Eve』のファンをかき集めといて損はねえっつうか」
「でも、日和はゲームしてないよね? いいの?」
「えぇ? 僕もやらなきゃいけないのかい、正直面倒だね……」
「そう? ゲーセンは楽しいよ〜? 日和行ったことないでしょ、絶対一回は行くべきだって!」

まぁ、本当に行ってみたほうがいいかもしれない。
ジュンくんのたった一度の投稿では、すぐに情報の波に流されてしまう。本当に【サマーライブ】の宣伝をするならば、毎日通って動画配信でもした方がいいくらいだ。

そういう旨を二人に伝えると、二人とも納得したらしい。

「まぁ確かに、事前に割引券とか配布はしたけど、実際たった一日しかない【サマーライブ】のことを注視して覚えてくれているお客さんなんて、コアなファンだけだよね?」
「現実的にはそっすね。それに、あそこのゲーム会社に連絡入れて、SNSにプレイ動画投稿しますからリツイートでもしてくださいみたいに言えば、向こうがオレらの宣伝してくれる〜くらいの見返りはありそうっすよね。実際、オレがこの前Twitterにあげた文字だけの呟きもリツイートしてくれてる訳ですし?」
「大企業がリツイートしてくれるだけで、十分宣伝になると思うよ。連絡しなくても最低限それくらいはしてくれるみたいだし、日和を連れてゲーセン行って、簡略な動画でも撮ればいいんじゃない? 事務所さんの方に連絡とって、動画撮影の許可貰ってくるね」
「マジっすか。なんかわりぃっすし、オレがやっときますよ?」

ジュンくんがそう言ってくれる。相変わらず気遣いのできた子だ。

「あはは、こういう裏方仕事は任せてよ。実際、レッスンは『Trickstar』と一緒だからほぼ口出しできないし。私の仕事と言ったら、もう企画を練るくらいのものでしょ」
「そりゃそうっすけど……いや、やっぱお願いします。他人の仕事の領分は侵さないほうが、絶対円滑っすからね」
「そうそう。やっぱりジュンくんは賢いなぁ、よしよし……♪」
「ちょ、千夜さん、無防備に撫でるなって、オレもう結構何回も言ってますよねぇ!?」

ジュンくんが恥ずかしそうに、少し説教くさいセリフを放つ。そうは言われても、夢ノ咲の皆と接してる時の癖がつい出てしまうのだ。

「うんうん、ジュンくんも千夜ちゃんと仲良くしてね! 後輩好きの千夜ちゃんをジュンくんが落とせば、玲明学園に引っ張れる! これは良い日和だね……♪」
「いや、そういう計画を練ってるなら、ちっとは自分でアピールすべきじゃないですかねぇ……?」

その通りです。
というか、あの約束は誠意を見せて勧誘するみたいな話じゃなかったかな!? 堂々と私を後輩という名のハニトラでハメようとしないでほしい!

「あーあー、二人ともうるさいね! それに口で勧誘するより、圧倒的な実力で僕らの魅力を証明するのが筋だね」
「あはは、なんだか日和らしいかも」

その、意外にもストイックなところとか。
意外と現実を真正面から受け止めて、真っ当に答えを出すところとか。そういう所は、結構昔から好ましかったんだなぁ、なんて思い出した。

「じゃあ、まずはゲームで実力のほどを見せてほしいな?」
「僕の専門外だね! うんうん、とはいえ君の戦略には従ってあげてもいいね! さあジュンくん千夜ちゃん、出かける準備をしようね!」
「ってもう出かけるんすかぁ!? 残りの書類は!?」
「明日千夜ちゃんが読めばいいね! 思い立ったが吉日、行動は素早く! それが良い日和!」

そういって私達に背を向け、さっそく私服を吟味しはじめる日和。
ジュンくんと顔を見合わせて、とりあえず着替えだす前に部屋から撤退することにした。