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First name


「さんざん日和の指摘を受けたところで今更感は半端ないけど、一応みんな自己紹介しようか」

いや、本当に今更だけど。

既に『Trickstar』の皆はさんざん日和に好き放題言われて(しかもこれが正論なのだ、中々初っ端から飛ばしていく彼のスタイル、何とも言えない)お疲れ気味の彼らには悪いと思ってるし、巻き込まれた漣くんには頭が上がらないけど。

「ああ、そうだな……。すまない千夜先輩、俺としたことが、つい頭がいっぱいになっていた」

居住まいを正し、さっきまで腰を下ろして休憩していた北斗くんが立ち上がった。……が、やっぱりしんどそうだ。

「無理しないで! 夏の暑さで、体力は絶対に落ちてるから。私が皆を紹介するって形でもいいなら、そうさせてほしいな」
「いいのか? 先方に失礼にならないだろうか……」
「俺たちの実力を見せつけてやる〜みたいに挑戦状たたきつけて置いて、今さら失礼とか気にしちゃうんだね! 北斗くんは面白い子だね!」
「確かに、巴先輩の言う通りか……」

苦々しく北斗くんが呟いた。明星が二人になったみたいだ、とぼやいていた彼の台詞が強烈すぎてまだ頭から離れない。かなりお疲れらしいし、ゆっくり休ませてあげよう……。

「えっと、まず……」

『Eve』に向けて『Trickstar』のメンバーを紹介する。とはいえ、事前に調べていたらしいし、彼らにとっては必要ない事かもしれないが。

そしてそれが終わったら、今度は『Trickstar』に向けて『Eve』の紹介を。日和の方はみんな知っているだろうと思ったので、先に説明をした。旧『fine』の二枚看板、その名はやはり二年生の記憶にも焼き付いていたらしい。

「で、漣くんは…………」

突然、私の言葉が途切れたからだろう。みんなが怪訝そうな顔で私を見てくる。

いや。しかし私は気づいてしまったのだ。とんでもない事実に……!

「いや、訂正するね。ジュンくんは」
「ちょっと待ってくれますかねぇ!?」

ビックリしたようにジュンくんが叫んだ。おおふ、私もその声でびっくりしたよ。

「どうしたの、ジュンくん?」
「いやいや、こっちの台詞ですよ? なんでいきなり名前で」
「いや、だって落ち着いて考えようよ。スバルくん、北斗くん、真くん、真緒くんでしょ?」
「は、はぁ。『Trickstar』の皆さんですね」
「で、日和でしょ?」
「おひいさんがどうかしたんすか?」
「違う違う! ここでジュンくんだけ『漣くん』って呼ぶのは、なんか嫌なの! 一人だけ名字呼びなんて寂しいし!」

後輩は平等に愛したいので、マイルールに倣って漣くんはジュンくんに変更です。

と理由を説明すると、ジュンくんは「いや、そんなお気遣いは……つーか、オレ如きがいいんすかねぇ?」とぼそぼそ何か言っている。

「もしかして、ジュンくんは名前で呼ばれたくなかった?」
「や、そんなつもりじゃねえっすよ?」
「うんうん、ジュンくんは女の子に慣れてないから照れてるだけだね! 遠慮せず呼んであげて構わないね!」
「いや、適当な嘘言いふらさないで欲しいんすけど」
「聞いたかい千夜ちゃん、ジュンくんの女遊びしてます宣言だね!」
「わぁ、ジュンくんったらすご〜い」
「いや先輩方、すげーウザ絡みっすね!?」

日和ときゃいきゃいJKのように反応していると、ジュンくんの的確なツッコミを頂いた。

「あはは、ごめんね? でも、嫌だったらほんとに断っても」
「……じゃねーっすよ」
「うん?」
「嫌じゃねーっすよぉ……? 千夜センパイ……」
「んなっ!?」

少し照れたように視線を逸らすジュンくん。しかし確かに、彼はいま『千夜センパイ』と呼んでくれた――!

「うれしい! きみはギャップ萌えが得意なフレンズなんだね!」
「なんすかその喜び方?」
「け*フレ……」
「あっ、真くんも知ってたんだ」
「あはは、まぁネット漁ってたら見かけますよね」

真くんが可笑しそうに笑った。ちょっと人見知りなところがある真くんだけれど、先にジュンくんと会ったからか、だいぶ自然体を見せてくれている。これは良い日和、というやつかな?

「でも先輩、あんまり漣くんばっかり可愛がってたらいけないよ!」
「そうっすよ先輩? ほら見てくださいよ、あの不満そうな北斗とスバルの顔!」

真緒くんがやれやれと言った顔で二人を指さす。するとなるほど、確かにふくれっ面のスバルくんと、拗ねた顔で氷の王子様感マシマシの北斗くんがじっとこちらを見ていた。

「千夜先輩、俺たちも可愛がってくれないと嫌だよ!」
「スバルくん、可愛いが過ぎる……」
「ふむ、今回ばかりは明星に同意だ。『Eve』のプロデュースをするという話は聞いているが、俺たちのことももっと見てほしい」
「氷鷹くん、台詞がすごい熱烈だよ〜!?」
「いや、やっぱ北斗の台詞は一々プロポーズに聞こえるんだよな……?」

一曲躍った疲れがだいぶ取れたのか、ワイワイといつもの調子を取り戻した『Trickstar』の皆。うん、やっぱり癒されるなぁ……。

「千夜ちゃん、『Trickstar』の後輩とのふれあいはほどほどにね?」
「うう……分かってるよ、日和」

どうも、使命と感情に開きがあっていけない。――爆弾を投げ入れる役目を負う以上、覚悟を決めないとね。