×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
▼ 神様は塩対応

「レオ、そっち3Aじゃない!」

がっ! とレオのフードを引っ掴んで引き留めると、ぐえ! というカエルのつぶれたような声とともにレオが止まってくれた。

「なにすんだよっ、首が締まったぞ〜!?」
「一瞬だから許して! それよりほらほら、斑に会いに行くんでしょ」

『3-A』と刻まれたプレートの下がった教室をびしっ! と指さすと、レオはおもちゃを投げられた犬のように素直に反応してくれた。

「あっ、そうだった! ママ! みけじママ〜!」
「おわわわ!?」

突然レオが私の手を掴んで走り出したので、慌てて足を走らせて彼についていく。

3Aの入り口からでも、レオの声はよく響いた。すぐにお目当ての人物にもその声は届き、レオの声に負けないくらいの大声が飛んでくる。

「おおレオさん、千夜さん! 欣喜雀躍! 遊びにきてくれたんだなあ、よおしよし♪」

そういって、斑が私たちを二人まとめて抱えるように抱きしめた。二人そろって「!?」という反応を見せた私たちは、まとめて抱きしめられたせいで頬がくっつくほど密着した。おしくらまんじゅうもかくやのキツい抱擁に、きゅるきゅると目を回しそうだ。

「うんうん、二人ともママを慕ってくれてうれしいぞお……☆」
「んむ、もー斑、ほっぺフニフニしないで欲しいよ……?」
「わわっ!? ママ、きつく抱きしめないで! ついでとばかりに頭も撫でないで、ああっ! 千夜に頬ずりしないで、がるるるるっ」

斑に海外式挨拶を行われている私を見て、レオが怒ったように声を荒げた。といっても、斑の前の私たちなどママの前の赤ちゃん……いや、これを言ったらレオに一週間拗ねられるからやめておこう。

「あっはっは、いろいろと要求が多いなぁ、レオさんは!」

可笑しそうに笑いながら、斑が私たちを解放してくれた。
ふう……やっと本題に入れそうだ。と口を開きかけたが、慌てて自分の手で口を開き、言葉を押しとどめた。代わりに、レオのことをつんつんと肘でつつくと、彼はやっと本題を思い出したらしい。

レオも、たまには『Knights』の役に立ちたいと申し出てきたのが昨日の夜。
なので、普段は細かい手続きや交渉は私の役目なのだけれど、今回は斑相手ということもあり、レオにお任せしようと思ったのだ。

レオの主題を抜かした突然のお願いにも、斑は鷹揚にうなずいてくれた。

「あんずさんが忙しいから、千夜さんがいつものように『Knights』のプロデュースをする。しかし千夜さんも当日は別件で付き添えないから、代わりに俺がプロデュースすればいい……これで間違いないかあ?」
「うん、そうだよ! さすがママ、すぐ分かってくれるな〜!」
「あはは、まぁ噂には聞いていたからなあ。けどすまないレオさん、おれも実は【フルール・ド・リス】で少し仕事があるから、本番ギリギリまで応援にいけないかもしれないなあ」
「え? 斑もステージに出るの?」

斑の好きな、わっしょい! 系のお祭りではないのだけれど。そう思ったのがバレたのか、斑がわしわしと私の頭をなでながら答えてくれた。

「ライブには出ないぞ! おれは日雇いバイトで、会場の設営をするってわけだ!」

え。

「まっ、ままま待っ……」
「うん? どうした千夜さん、俺はママだぞ〜!」
「ちょ、ちょ〜っと後でお話が……」

私が怪しい商人レベルの挙動不審さで斑にずいっと迫ったら、それを見たレオが私の制服の首根っこを引っ張ってきた。

「うぎゃ!? 首締まった!」
「さっきおれも締まったから、お相子だろー?」
「なんなの、仕返しなのっ?」

私のツッコミを軽くスルーして、レオは私の身体を自分の隣という定位置に戻し、ママとの交渉を続けた。

「ママには衣装調達やライブの準備を手伝ってもらえると助かるんだけど」
「お安い御用だぞお。『Knights』の衣装は何度か見たことがある。泉さんの知り合いのデザイナーさんに頼んでみよう」
「デザイナーって、もしかしてあいつ?」
「おわ、いずみん……」
「だから、そのダサいあだ名で呼ばないでくれるぅ? ちゃんと泉って言ってほしいんだけど」
「わはははは☆ そうだぞ、セナはちゃんと千夜に名前で呼んでほしいんだからな〜♪」
「ちょっと、何適当なこと言ってんのぉ!?」

どうしよう、泉まで現れてしまった。これでは斑に私のバイトの件を打ち明けるタイミングが――! 

ってまぁ、携帯にしとけばいいかな。斑はなかなか携帯を見ないけど、さすがに【フルール・ド・リス】までには見てくれるだろう。

斑とまでバイト先が被るとは、神様が私に塩対応すぎる気がしてきた。

prev / next