「うみだー!」
「湖、ですけどね」
「いーんじゃねーの?うみ付いてるし」
「ほう、でかいな」
「綺麗な場所ね」

 照りつける太陽。煌めく水面。美しい翡翠色の湖面に、一行は感嘆の声をあげた。
 山々に囲まれた湖は人の住む地域から離れているからか、自然が手付かずのままのこっていた。
 一行は秘境とも言える場所に車を止めてしばしの休息をとっていた。

「見てるだけで涼しいわね」
「ずっと砂漠とか荒野を暑苦しい中走ってからな。こりゃー良いな」
「迷子になって逆に正解でしたねえ」
「――誰のせいだと思ってんだ、誰の」

 三蔵はじろりと延びをする悟浄を睨んだ。

「は、地図読んでたの三蔵様っしょ!?」
「こんな見にくい地図買ってきたてめぇが悪いんだろうが!」
「そこまで遡るワケ!?」
「まあまあ、良いじゃないですか。お陰でこんなに良い処を見つけたわけですし」
「あっ、魚泳いでた魚!あれ捕まえて昼飯にしよーぜ!」
「ちょっ、そのまま入っちゃ駄目でしょ悟空!?」

 走って湖に飛び込もうとする悟空の腕を延朱は掴んで制止した。

「えー、なんでだよ?」
「濡れた服どうするのよ。せめて上だけ脱ぐとか、別のものに着替えてからじゃないと、」
「ああ、いいものがありますよ」

 いつもの笑顔を向ける八戒。明らかに何かを企んでいるその表情に、四人は固まった。



 basin!



「八戒すげー!こんなモン持ってたんだな!」

 満足げに浮き輪を持って跳ねる悟空は、いつもの衣装を脱いでハイビスカスの柄の入ったサーフパンツを履いている。上は勿論着ていない。

「前回川で水浴びした時不便だと思ったんですよね。泳ぐならやっぱり水着じゃないと」

 にこやかに微笑む八戒は青と白の縞の入ったサーフパンツを着ていた。半袖のパーカーと麦わら帽子を被っている。

「持ってんのは良いんだけどよ……なんで俺はこれなんだよ!?」

 悟浄は赤と白の縞の入った全身水着。

「仕方ないですよ。種類的に被らないようにしたらそれしかなかったんですから」
「だからって、これはねぇだろこれは!」
「やべぇ、その格好、超うけるんですけど!」
「笑うんじゃねえよ!クソ猿!」
「でも、だって、ぶはははははは!」

 泣きながら地面を叩く悟空を見て悟浄は拳を震わせた。

「てめえ、マジぶっ殺す……!」
「――まだ良いわよ、悟浄は……」
「どわぁッ!?」

 背後から忍び寄るようにして延朱が立っていた。その顔は晴れ晴れとした青空とはうってかわってどんよりとしている。

「なんだよ、延朱もちゃんと着てんじゃん」

 俯く延朱は八戒と色違いの半袖のパーカーを着ていた。下は黒いフリルの付いた水着を着ていた。

「脱ぎたくても脱げないのよ!だって脱いだ服畳んでジープに置いといたら、八戒がどっかやったんだもの!」
「あはははは。皆リゾート気分なのに、一人で服着るのは無しだと思って」
「なんだ、また過激で露出な高いのでも渡したのか?」
「またってなんですか、悟浄。僕が渡したのはいたって普通のセパレートタイプの水着ですよ。背中も首も見えませんから、戦闘の傷とかも見えないはずなんですが、」
「そうだけど……そうだけど!」

 延朱は顔を赤くしてパーカーの裾を懸命に伸ばしている。どうやら下半身に何か文句をいいたのだが、恥ずかしくて言えないようだった。
 その様子にぴんときた悟浄はにやりと口の端を挙げて目を光らせた。

「はっはぁ。もしかして処理してなかったんだなァ?下の毛とか、」
「鉄拳制裁です」

 笑いながら、八戒は悟浄の首に思い切り手刀をおとした。
 あまりにも早すぎて、悟空と延朱は目を丸くして唖然としている。
 悟浄はその場で崩れ落ちた。

「で、何がご不満なんですか?」
「いえ、なんでも、ありません……」
「な、なぁなぁ三蔵はッ!?三蔵とこいんの!!」

 もう別の話にしないと黒いオーラに侵食されると野生の勘で気づいたのか、悟空は慌ててキョロキョロと見回した。

「あぁ、三蔵でしたら、確か――」

 湖畔に佇むカラーパラソル。その下には折り畳みチェアに寝そべって新聞を読む三蔵の姿があった。
 三蔵は上着として青地に真っ赤なハイビスカスの柄が入った派手なアロハシャツを羽織り、下も下で赤色の派手な短パンを履いていた。
 その姿を見て三人は完全に硬直している。

「――なんだ?」

 普段は眼鏡をかけて新聞を読む三蔵だったが、リゾート仕様となったサングラスを少しずらして三人を見やった。

「……な、なんでもない」
「私、今三蔵にお金せびられたら、確実に全財産出して土下座するわ」
「楽しそうで何よりですねえ」

 苦笑いする三人を余所に、三蔵は首を傾げてから新聞に視線を戻した。

「それじゃあ皆さん準備もできたことですし」
「泳ぐっぞー!」
「おー」

 悟空と延朱は一緒になって湖に走っていった。八戒もゆっくりとだがそれについていく。
 しばしゆっくりとした時間を、一行は楽しむのだった。





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