とある二人の一日。







「そうだ。ゲームしませんかシシー」

 バーナビーが唐突にそんなことを言い出したのは空がオレンジ色に染まる黄昏時。
 今日は午前中に事件があり、バーナビーは昼過ぎには家に帰ってきていた。
 しばらく持って帰ってきた仕事をリビングで広げていたのに、久しぶりに口を開いたと思えばこの一言。
 バーナビーの前に入れたてのコーヒーを置きながら、あまりにも急な発言にシシーは思わず首を傾げた。

「ゲーム……でございますか?」
「はい」
「――またあのショットのようなお酒を飲むゲームでしたらご遠慮致しますが」
「違いますよ。今日は健全なのです。あ、ついでに賭けもしましょうか。勝った方が負けた方の言うことを一つだけ何でも聞く」

 バーナビーは平然と微笑んでいたが、シシーにはなんだか嫌な予感しかしない。

「バーナビー様、『何でも』と仰られても……」
「『何でも』ですよ。ああ、永久的なことは駄目ですよ。『これから一生○○をしなさい』とか、頼み事を増やすのも駄目ですから」
「つまり、一回できちんと終わるリクエストなら『何でも』良いという訳ですか?」
「まあ可能な範囲で、ですけど」

 バーナビーの顔は既に綻んでいてとても楽しそうに見えた。

「バーナビー様のお申し付けでしたら、賭けなどなさらなくとも何でも致しますが……」
「じゃあ、代わりにヒーローやってくれと言ったらシシーはやってくれるんですか?」
「『可能な範囲』ではございます。ですが、バーナビー様のスーツは私の体には合いません」
「冗談ですよ、本気にしないでください……まあ、そういうところも好きなんですけど」

 ニッコリと笑って言うバーナビーにシシーは顔を赤らめる。こうやっていつもからかって遊ぶのが好きなのだ、この方は。

「顔が赤いですよ、シシー」
「赤くありません。それ以上見たらバーナビー様でも容赦致しませんから」
「ごめんごめん。それじゃあ、ちょっと待ってて」

 バーナビーは立ち上がると寝室に消えていった。少ししてから大きめの紙袋を持って帰ってきた。

「バーナビー様、そちらは本当にゲーム機ではないのですか?」
「能力使ってまで中身透視しないでくださいよ。だから、ゲームって言ったじゃないですか」
「私てっきり、ポーカーや早撃ちやロシアンルーレットやバトルロワイヤルだとばかりに……」
「こわっ。そんなのするわけないじゃないですか」

 確かにその通りだとシシーは言ってから気付く。
 磯野ー、バトロワしようぜー! なんて言って遊びに誘う人間がいるはずがない。
 ――否、昔一人いた。母だ。
 シシーはその時の事を思い出して唸った。思い出したくない記憶ワーストテンに入る程、凄惨きわまりないゲームだった。一生その事は口に出すことはないだろうと思いながら、シシーはゲーム機と大画面モニターをつなげているバーナビーの後ろ姿を見つめた。
 薄暗くなってきた部屋にゲームの音が大音量で流れ出した。

「ば、ばいおはざーど?」

 画面には、血や傷などによって仰々しく飾られたゲームの題名が映し出された。シリーズ物らしく、最後に英数字が付いていた。ちなみに五作目らしい。

「知らないんですか? かなり有名なゲームですよ。と言っても僕もやった事がないんですけどね」
「名前は存じ上げておりますが、ゲーム自体、やったことがありませんので……こちらのゲームはどんな内容なのですか?」
「落ちてる武器を拾って迫り来るゾンビを倒すゲームです、って折紙先輩が言ってました。あ、これ貸してくれたの折紙先輩なんですよ」
「日本のアクションゲームまで持ってるなんて、さすがイワン様ですね」
「中身はちゃんと英語ですけどね。二人プレイができるんで、一緒にやりましょう。最後に得点が出るんで、その得点が高かった方が勝ちって事で」

 シシーは神妙に頷いた。

「シシー。ここに」

 バーナビーが床に座って手招きをする。そしてすぐ横のスペースをポンポンと叩いた。
 おずおずと近づいて座ったシシーに、満足した顔でバーナビーは笑った。
 ゲームの箱に入っていた説明書を手渡した。それをシシーはコントローラーと交互ににらめっこしている。
 ゲームすらした事がないというシシーに、負ける気はしなかった。バーナビーは心の中で勝利宣言をしていた。
 余裕の表情でバーナビーはコントローラーを握る。

「さて、と。暇潰しとは言っても真剣勝負ですからね」
「無論、承知しております」

 スタートボタンを押すとモニターにオープニングが流れていく。簡単に説明すると、大手製薬会社が作り出してしまったウィルスで、人間が凶暴化したゾンビとなってしまい、それが世界中で感染拡大を起こしているという内容だった。

「結構リアルですね、このゾンビ」
「腐った描写がとても」
「……見たことあるんですか?」
「聞かない方がよろしいかと」

 そんな世界でもまだ普通の人間も少なからず生きていて、ゾンビを倒すプロフェッショナルまで現れている。その中の一人の男が主人公だった。もう一人の主人公は女性で、二人は元凶となった製薬会社に潜入しながらゾンビを倒していくようだ。

「あ、銃貰った」
「ベレッタのM92Fですね。威力は他のハンドガンよりも劣りますが、リロードが少ないので戦闘時のリスクが低いのがメリットでございます」
「――このゲーム終わるまでに、ガンマニアになってそうな気がします」

 つらつらと説明していくシシーにバーナビーは苦笑いしながら言った。
 薄暗い入り口に二人のキャラクターが立って何か話している。
 後ろから呻き声を上げてゾンビが迫り来る。
 男は支給されたばかりの銃を構えて撃ちまくる。
 女はというと、そこらへんをくるくると回っただけ。

「……なるほど」
「関心してないで撃ってくださいよ!」
「かしこまりました」

 動きの止まった女は襲いかかるゾンビの頭に一発ずつ弾を撃ち込んだ。

「うわ、エグい」
「ゾンビも人間も頭を狙えば一発なのですね」
「……もう何も言いませんよ」

 こうして二人の戦いの火蓋は緩やかに落とされたのだった。



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