※パラレルワールドとなっておりますので、そちらを了承の上、お読みください。









 窓から見える小さな灯りが一つ、また一つ消えていく。そんな、夜が深くなる時間だった。

「延朱どうぞ」
「ありがとう八戒」

 部屋の備え付けの机で真剣に勉強する延朱の隣に立つ八戒が片手に持つのは砂糖とミルク多めのコーヒー。それを延朱の側に置くと、もう片方の手にあった自分のコーヒーに口を付けた。

「――久しぶり、ですね。貴女と相部屋も」
「そうね。ここずっと、一部屋か二部屋取れただけでもよかったもの。もう少し宿があっても良いと思うんだけれど」
「やはり負の波動のせいで治安が悪くなっている事も原因になってるんじゃないでしょうかね。延朱、そこの意味が少し違います」
「嘘、どこ?」

 八戒は紙の上で指摘した場所に指を滑らせながら説明する。
 延朱が読者がてら文字の勉強をしていたので、八戒はそれを指南していた。といっても、八戒自らその教え役を買って出たのだ。理由は至極簡単な事で、延朱と少しでも長く一緒に居て、話しをする為だった。

「なるほど。さすが八戒。ありがと、う、」

 不意に延朱が顔を上げた、途端に顔を赤くして俯いてしまった。八戒とて同じだった。説明する際に延朱を覆い被さるようにしていたので、延朱が振り返った際に顔が至近距離にあったのだ。
 さすがの八戒でもこれには赤面をして、延朱から勢いよく飛び退いた。

「あ、す、みません」
「こち、こちらこそ、急にそっちを見たのが悪かったんだもの、ごめんなさい」

 二人は同時に、本当はそのまま抱きしめてもよかったのではないかと思っていた。勿論、互いがそんな事を考えているとは露知らず。
 いつからか二人はお互いを意識し、好意を抱いていた。だが、それを未だに口にする事はない。
 なんともバツの悪い空気が二人の間を流れる。
 刹那、二人の間に人が現れ、床に落ちた。

「「え」」

 あまりにも突然なことに八戒も延朱も、開いた口が塞がらない。
 落ちてきた男は尻餅をついた場所を擦りながら、なんとも温和な口調で言った。

「あいタタタ……あ、僕死んでませんね。それにメガネもある」

 肩ほどまで伸びた黒髪を耳に掛けながら、男はずれた眼鏡を直すとゆっくりと立ち上がった。かと思うと、延朱を見た瞬間、延朱に飛びついて言った。

「銀朱!?どうしてここにいるんですか!金蝉達はどうなったんですか!!?怪我は……怪我はないんですか!」
「なん、な、な!?」
「よかった……銀朱が無事で、よかった」

 急に現れた男は、延朱の身体をあちこち触ってから安堵の溜息を漏らすと延朱抱きついた。
 延朱は更に目を見開いて、口を開閉している。
 八戒は未だ起こる目の前の現象に頭がついていけない様でフリーズしている。
 恋人を抱き締めるように延朱の身体に回していた手が遠ざかる。というよりも我に返ったに近い速さで男は離れながら言った。

「あれ、なんか、小さくなりました?色々と――――」

 頭の天辺から足元まで視線が動いてからの、胸。
 延朱はこれまでにないほどに顔を赤くして怒鳴りつけた。

「急に出てきて何よ!?悪かったわね、小さい胸で!!!
貴方こそ誰なの!というか、私は銀朱ではないわ、延朱よ!」
「え?」

 ようやくここで、延朱は男の顔を見る。すると、みるみるうちに顔の色が白くなっていった。というよりも青ざめていく。

「え――はっ、かい?」
「は、はい」
「じゃなくって!これ!」

 延朱は男の腕を掴んでくるりと後ろに振り向く様に回した。
 目の前には、八戒と同じ顔の男が居た。違うのは服装と、髪の長さくらいだ。
 寸分違わぬ顔を見てか、本人たちの顔は固まっている。

「……八戒って、双子だった、わよね」
「ええ、まあ」
「ごきょうだ、」
「「違いますね」」


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