○×△との距離。


 窓から入り込む日射しは澄んだ空気と共に三人のいる部屋に入り込む。そんな爽やかな昼下がりのこと。

「そこのカード持ってるやつ誰だよー!始まってから全然スペード埋まってないじゃんっ」
「そーゆーゲームなんだからしょうがねえだろ。仕方がないからこの悟浄様が出してやるとしますか、っと」

 床にそれぞれ四種類のトランプが別々に『7』を中心として何枚か並んでいた。それらを悟空、悟浄、延朱が囲むようにして座っている。
 悟浄はにんまりと悟空を見ると、出し渋るような素振りをしながら一枚のカードを並べた。

「はっ!?ダイヤのそこ止めてたの悟浄かよ!マジありえねえ!」
「出して欲しそうな顔して見てたもんね。お猿ちゃんってば」
「猿って言うな変態赤ゴキブリ河童!」
「〜〜っ、お前今最上級使いやがったな?こンのお子ちゃまちびっこ猿!」
「だー、また言ったな!!」
「あ?なんだ、やっか?やるのか?やるってんなら外に、」
「はい、あがり」
「「え」」

 ペタン、ペタンと二枚のカードを延朱は置いた。一枚はジョーカー。七並べでジョーカーはどんなカードにもなる最強のカードであり、最後まで手札にあると敗北が決定する諸刃の剣でもある。その隣にはスペードの『]』があった。

「なッ」
「いつの間に!?」
「二人が喧嘩してる間に。」
「しかもジョーカー回って来たし……延朱ちゃんおとなげなーい」
「大人げないのはどっちよ悟浄。手当たり次第止めてばっかりなのは良いけど、多分きっとジョーカーの使い道に困ると思うわよ」
「――――あ。」

 延朱の読み通り、手元の数枚は悟空への嫌がらせの為に止めていたカードのようで。手札を見て頭を抱える悟浄を悟空は大笑いしながら指差した。

「あっははははは!悟浄ダッセェ!」
「うっせ!」
「おや、楽しそうですね」

 にこやかに部屋に入って来たのは八戒だった。手には大きな篭を抱えている。

「八戒何それ、食いもん?」
「残念ながら違いますよ。天気が良いので洗濯でもと思いまして」
「たーしかに」
「良い天気だもんなァ」

 悟空と悟浄は窓の外を見た。昨日の雨が嘘のような、雲一つない空が広がっている。
 延朱は立ち上がると八戒の持つ篭を覗いた。五人分の洗濯物は一人で干すにはかなり時間がかかる量だった。

「これから干すの?私も手伝うわ」
「良いんですか?カードしてたんじゃ」
「今上がって暇になったところよ」
「そうなんですか?それじゃあお願いしようかなあ」
「ええ。それじゃあ悟空、頑張って悟浄負かしてね」
「おーよ」
「終わったらおやつ持ってきますから」
「ヤリィ!」

 二人は話しながら部屋から出ていった。それを見送った悟空はトランプへと向き直ると、なぜか顔をしかめている悟浄と目が合った。

「な、なんだよ?」

 何かしたのかと悟空は思わずたじろいだ。悟浄はその様子に頭をかいてわざとらしくため息を吐いた。

「お前さぁ……ちょっと前から延朱ちゃんとできてんだろ?」
「そ、そうだけど、それがなんだってんだよッ」

 悟浄はさらに深呼吸のようなため息を吐いた。それはもう呆れてものが言えないという表情に、悟空は少しムッとした顔になった。

「――それがなんだよ」
「いんや、別に?お前がそのままで良いなら俺は別に構わないんだけどさ」
「何言いたいのかぜんっぜんわかんねーし!」
「じゃあ言うけどよ。このままじゃぜってー延朱に嫌われんぞ」
「は?わけわかんねーし。だって俺のこと好きって延朱が言ってんだから嫌われるわけないじゃん」
「わかっちゃいねえなあ。女心ってのを」

 チッチッチと、舌打ちしながら指を振る悟浄はなぜか得意げに笑って見せた。

「女心と秋の空っつー言葉があるぐらい、心境ってのは変わりやすいんだよ。おめーみたいな見た目も性格のガキんちょなんてすぐ飽きられんぞ」
「そんなことねーし。つーか、ガキガキって……どこがガキなんだよ!?」
「そーゆーとこだろ」

 ムキになりかけた悟空の顔を悟浄はビシッと指差した。

「カードとか麻雀はすぐムキになる。飯のことになると見境ねえし。大人の色気ってもんがひとっつもありゃしねえ。女ってのはな、大人の男が好きなんだよ。例えば俺みたいな、な」
「悟浄はない。それはない。」

 悟空は真顔でそう断言する。悟浄は思わず肩をガクンと下げた。

「けっ、言ってろ。おら続きやんぞ」

 手札に視線を戻す悟浄とは違い、悟空はずっと俯いたままだった。かと思えば、手札を床に置いてすくっと立ち上がると、早足で部屋の出口に向かった。

「悟浄の勝ちでいーよ。ちょっと行ってくる」
「行ってくるって、」

 悟浄の言葉はバタンと強く閉められた扉によって遮られてしまった。

「ったく、いっちょ前に色恋しやがって」

 悟浄の心配する声は溜め息と共に暖かな日射しに溶けていった。



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