「あー!やっぱ外は気持ちが良いぜ」

 じめじめとしていた講堂を出る。薄暗さに慣れた目に陽光が眩しくて、綾乃は思わず目を細めた。
 季節柄、照りつけるような光ではなく、なんとも心地のよい日差しが身を包んだ。
 午後の講義が休講になったため、綾乃は食堂で菓子パンと牛乳を買って図書室から借りた本を数冊手にしてお気に入りの場所へと向かった。
 校内にある林の中にその場所はあった。茂みを手でかきわけると一畳程のスペースが目の前に現れた。入学してすぐに見つけた、車の騒音も人の声もほとんど聞こえない、誰に見られる事もないお気に入りの場所だった。

「さて、どれを読むかな」

 大きな幹の木に寄り掛かって座る。持ってきた本の題名を適当に見てから、茶色の表紙の重厚な本を膝の上に乗せて読み始める。
 犯罪者のプロファイルが載っているものだった。早めの昼食を口に放り込みながらその本を読み進めていく。しかし昼の陽気がとても気持ち良く、ついうとうとしてしまったのだった。

***

「おい君。おい」

 どれくらいの時間が立っただろうか、綾乃の睡眠は誰かによって妨害された。体を小さく揺さぶられ、意識がゆっくりとこちら側に戻される。

「っせえなぁ……人が折角気持ち良く寝てるってのに、」
「うるさいとはなんだ。君はここの学生か?なぜこんな所にいる」

 学生か?と聞かれ、ゆらゆらしていた思考が急激に脳に押し戻され、そして止まった。
 そのような聞き方をするのは学校関係者しかいるわけがない。
 この半年間、誰にもバレることなく可憐でおしとやかなお嬢様を演じてきたのに。バレたらせっかくの大学生活が全部パーだ!
 そう考えついた瞬間、眠気なんてどこへやら。さあっと血の気が引いていく感覚が綾乃を襲った。

「おい君、大丈じょ、」
「大丈夫です!失礼致しました!!」

 パニックの最中、弾き出された答えは逃げる、だった。
 顔を見られない様深々とお辞儀をし、顔を下げたままそこから転がる様に走り去った。

「先生ー!湯川先生!ボールありましたかー……て、どうしたんですか」

 走り去る綾乃を見ながら呆けていた男は、思い出したように近くにあったテニスボールを拾い上げた。

「――いや、なんでもない。ボールと一緒に面白い物を見つけた」
「なんです?」

 湯川と呼ばれた男は、それ以上何も言わず口の端をあげたのだった。




TOP
栞を挟む

3/102
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -