悟浄は妖怪の胸ぐらを掴むと、怒りに任せて怒鳴り散らした。

「ナメた真似してんじゃねーぞカマ野郎!!今すぐ毒を消しやがれ――ッ!」

 しかし返事はない。妖怪は口元を歪ませたまま息絶えていた。

「死んでやがる……」
「出血多量でしょう。所詮、不老不死説もでまかせに過ぎなかったってことなんでしょうね」

 「それよりも――」八戒は悟空を見やった。悟空は三蔵を抱えたまま微動だにしない。

「おい、こいつまた暴れ出すんじゃねーか?六道の時と同じシチュエーションだぜ、コレ」
 
 悟浄は八戒に耳打ちをした。流れる血、動かない三蔵。それを見た悟空は六道の時には金鈷がはずれ暴走した。前回は観世音菩薩が途中で金鈷を付け直してくれたから良かったものの、今回もまた手助けしてくれるとは限らない。
 一抹の不安を感じながら、八戒は悟空に話しかけた。

「悟空――」
「……八戒」
「え?」

 今まで無言だった悟空が突如口を開くと。八戒を見上げた。

「――どうすればいい? どうすれば三蔵を助けられる?」

 悟空は力強い瞳で八戒を見やった。あの時約束した事をふと思いだす。

『――強くなる』

 その言葉通りに、悟空は精神も強くなったのだと八戒は微笑んだ。

「―――何かしら策はある筈です。三蔵がそう簡単に死ぬワケないですから」

「大丈夫ですよ。このヒトがそう簡単に死ぬワケないですから」八戒はそう言って悟空の頭をくしゃりと撫でた。勿論その言葉は悟空を安心させる為でもあるが、気休めで言ったわけでもない。この男も色々な修羅場を抜けてきたのだから、そう易々と死ぬはずがないと断言できたのだった。

「とりあえずは地上に出るのが先決だな」
「ええ、昨日寄った村に戻れば血清ぐらいあるかも、」

 突然地響きがしたかと思うと、建物が大きな音を立てて揺れ動く。天井からパラパラと壁の欠片が降ってきていた。 

「な、何だぁ!?」
「どっかが崩れた様な音がしたぜ?」
「――まさか!」

 八戒は人差し指を立てて、二人を見た。

「ここって地下じゃないですか?」
「「まぁな」」
「僕達さっき牢獄からどうやって抜け出しましたっけ?」
「「壁つき破って」」
「もし地下の中枢部にあたる壁が壊されたらどうなります?」
「どうって…」
「うえの砂漠の重みに負け、」

 物凄い音と共にドアが決壊して、廊下に溜まっていた砂が部屋の中へと侵入する。八戒の言った通り、先ほど壊した壁のせいで城が脆くなり、建物全体が砂で押しつぶされようとしていた。

「早く言え、そーゆーことわ!!」
「だから、さっき止めたじゃないですかぁ!?」
「出口どころか、この部屋からも出られなくなったぜ!?」
「どっかに通気孔か何かねぇのかよ!!」
「――あ」
「何やってんだ八戒!!」

 八戒は何かを思い出し、砂をかき分けて歩いていく。砂で埋まっていく部屋の中で、八戒は棚の引き出しを乱暴に開けた。

「経文です……!魔天経文だけでも取り戻しておかないと」
「おい、何かヤベーよッ、天上が落ちる!!」
「悟浄、コレ持ってて!!」

 天井から聞こえていたピシピシという音が、バキバキという歪な音に変わった。八戒は急いで経文を悟浄に手渡すと、頭上高く手を上げた。
 爆発するような音がして、建物が砂の重さに耐えられなくなり、天井の一角を突き破る。
 砂がのしかかると思って三蔵を庇いながら目を閉じていた悟空だったが、その感覚がない事に気付き、うっすらと目を開けた。

「あ……れ?」
「八戒……!!」

 八戒が防御壁を作り、三人の頭上から降り注ぐ砂を防いでいた。

「生憎、頭上しか守れませんからねッ。足元埋まらない様に注意して下さい!!」
「注意ったって……うわッ、八戒が埋まっちまうじゃねぇか!!」
「もうよせ八戒!こんなのに持ちこたえてたら、お前の血管ブチ切れるぞ!?」
「ここで全員、生き埋めになるよりマシですよ!」

 しかし、頭上は守れているが防いだ砂は足元を埋めていく。
 遂に重みに耐え切られなくなった天井が砂ごと四人へと落ちてくる。万事休すかと思ったその時だった。
 一迅の赤い風が吹き荒び、落ちてくる砂を天井の壁ごと吹き飛ばしていった。

「と、止まった……」
「大丈夫か?」
「何とか……それより今のは――」

 突然広がった青い空を見上げると、立っていたのは見覚えのある男だった。





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