紅孩児と独角兒は砂漠の中を歩いていた。
 玉面公主の命で、砂漠の妖怪から経文を奪ってくる為にやって来ていたのだが、その妖怪の住処が見つからないでいた。

「確かここら辺だったよな、紅」
「あぁ、そのようだが――どうした独角?」

 うだる暑さの中、独角兒が手を日差し避けにしながら遠くを見つめた。
 その姿に紅孩児は不思議そうに訊いた。

「なんか、あそこに白いのが……おいアレ!?」

 言うよりも早く、独角兒は走り出した。慌てて紅孩児も後を追う。目線の先には砂と同じような布に包まれた白いものが見えていた。

「なッ、延朱とあいつらのジープじゃねぇか!?」
「延朱だとッ!!」

 紅孩児は独角兒を追い抜いて駆け寄ると、延朱が息も絶え絶えに倒れていた。腕にはジープを抱いている。

「おいッ、」

 延朱を抱えようとした刹那、紅孩児は襟首を掴まれて顔を引き寄せられた、だけではなかった。首にはいつの間にかナイフが突きつけられていた。あまりの速さに、紅孩児は全く動けなかった。

「紅孩児!」
「――なんだ、紅い王子様、か」

 殺気立っていた銀朱と視線が交わる。相手が紅孩児だとわかると、その殺気どころか気力すら消えて、銀朱はフラフラと前のめりに倒れてしまった。紅孩児はそれを抱き止めた。

「延朱、何故ここにいる!?あいつらはどうした!!」

 紅孩児は銀朱の肩を持って問いただすように揺さぶる。
 その振動がブレる視界や気分の悪さを更に酷くさせた。銀朱は返事も出来ずに、荒い息をしていた。

「やめて、くれ。おかしく、なり……そうだ……」
「延朱……!?」

 触れた肩が異常に熱い事に気付いた紅孩児は銀朱の額に手をおいた。

「すごい熱だ……おい独角、水を、」

 生白い肌は熱を帯びて蒸気し、苦しそうに吐き出される熱い吐息が紅孩児の胸元にかかる。長い睫毛の下にはうっすらと涙を溜めた瞳が揺れていた。
 扇情的な銀朱の姿に、紅孩児はこんな状況だというのに目を奪われていた。

「ほらよ紅。それにしてもこの炎天下の中に、どうして――」

 部下の言葉に紅孩児は我に帰る。そしてある事に気付く。

「貴様、誰だ!」
「紅、何言ってん、」
「延朱の瞳は金色だ。しかしこいつの瞳は朱い」

 紅孩児の殺気に、銀朱はやれやれと言って鼻で笑う。

「話せば長くなるよ。その前に、見てもらった方が、早い。延朱が君たちと話したい、って」

 銀朱の言っている意味が全くわからず、二人は顔を見合わせた。しかし謎はすぐに解ける。
 頭をガクリと落とした銀朱が、次に顔を上げた時には瞳の色が金色に変わっていた。二人は驚きを隠せない。

「――こ、がいじ」
「延朱、なのか?」

 延朱は小さく頷いた。紅孩児の頭は混乱しながらも一つの答えが浮かび上がった。

「や……ねさんは?」
「八百鼡?今日は来てないぞ」
「まずい、わね」

 立ち上がろうとする延朱の身体を引き止める紅孩児。

「今はお前の身体の方がまずいだろうが!!おい独角、こいつを白竜のとこに、」
「駄目ッッ!」

 延朱は荒い息をしながら声をあらげた。突然あげられた声に二人は呆気にとられる。

「延朱……」
「助けなきゃ、」
「助けるって、あいつらか!?あいつらはどこにいるんだよ!?」
「砂の下、よ。三蔵がサソリの、毒に、やられ……早くしなきゃ」
「三蔵が?どういう事だ!?」
「私が、どうにか、しないと……ッ」

 立ち上がり歩こうとする延朱の腕を、紅孩児は掴んで離さない。

「離して!!」
「嫌だ」

 必死な声で言う延朱の腕を、紅孩児は離さずに見つめた。
 ここへ来る前にある男の言った言葉が、脳裏に過ぎる。

 ――大事なモノは、手放しちゃダメだよ?

 今手を離せば、延朱は一行の元に行ってしまう。
 それならいっそのこと延朱をこのまま城に連れて行ってしまおうか。

「……独角、延朱を頼む」
「あ、あぁ」

 なぜそう思ったのか自分でもわからなかった。
 ただ、城に連れ帰ったとしても、延朱の気持ちがこちらに向くはずがないのは明らかで。馬鹿な事をしても意味がないと、紅孩児もわかっていた。
 しかし、そんな風に思ってしまうほど、無意識のうちにこの少女に惹かれていた。
 紅孩児は延朱を独角兒に預けると、立ち上がる。

「どうする気だ?」
「――吹き飛ばす」

 紅孩児が詠唱を始めると、赤い強風が吹き荒れた。





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