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彼の手を握る。
それは暖かくて、優しくて。
「ずっとナマエを守る。」
あの時は、そんなくさい台詞を真剣な眼差しで言うものだから、笑うことも出来ずに私は頷いたんだっけ。
……でもね、クラウド。
今となっては、あんな言葉笑い飛ばしちゃえば良かったのにって、そう思うんだ。
花束を花瓶に生けて、シーツを整えて、彼の額に小さく浮かんだ汗を拭う。
「寒くなったね、クラウド。大丈夫?」
笑いかける私の視線の先には、ベッドに横たわった、愛しい彼の姿。
額や腕に巻かれた包帯、血の滲んだガーゼ、服の胸元から覗く痣。
そのどれもが、私の心臓を握り潰そうと襲い掛かる。
問いかけの返事は、無い。
あの日は、2人で何でも屋の仕事をこなしていた。
依頼内容は、最近よく出没するモンスターの群れを討伐してほしいというもの。
彼は接近戦、私は魔物たちに見られない近くの草むらからスナイプして援護。
でも、その日は苦戦を強いられた。
モンスター達は手強くて、さらに知性もあるらしく、あの手この手で連携をとりながら彼を襲う。
必死になって引き金を引くうちに、だんだん周りが見えなくなって、私は後ろの気配に気付かなかった。
「ナマエ!!!」
彼の大声が聞こえたと思ったその時には、彼は私を庇って倒れていた。
それからどうやって帰ってきたのかは覚えていない。
腿に付けていたダガーが無くなっていたから、それを使ったのだとは思う。
それも、何でも屋ができた記念にクラウドが買ってくれたダガーだった。
無くしたなんて知られたら、怒られるかな。
大声で叫びたいと思った。
なんで彼がこんな目に、なんで私じゃ無かったのって、そうやって泣き喚きたいと。
そしたら、
「どうしたんだ、泣かないでくれ。」
そう言って困った顔をした彼が、いつもみたいに優しく抱き寄せてくれる。
いつも通りの私たち。
……なんて、ただの幻想でしかないけれど。
そして、いつも思い至るのは、このまま彼が戻ってこなかったらどうしようという底の見えない不安。
それでもそんな事思ったら本当に彼が帰ってきてくれなくなるかもしれないなんて、さっきの考えを追い出そうと必死に首を振った。
会いたいよ、クラウド。
「いるだろ、ここに。」
違うの。
目を合わせて、笑いあって、触れ合いながらキスをしたい。
「そんなこと、いつだってしてやる。」
嘘つき。あなたはその目だって開かないくせに。
……起きてよ、バカ。
小さく、その頬に拳を当ててみた。
彼の顔が、逆の方向にかくんと傾げられる。
さらさらと前髪が瞼に落ちたのを、優しく払った。
頬にキスをする。
キスしても目を覚まさない王子様だけど。
「クラウド、今日も愛してる。」
今度は唇にキスをして、その時私の涙が彼の頬に落ちた。
エメラルドの瞳が私を捉える、3秒前のお話。