熱に絆される。
「へっ……ぶしっ。」
間抜けな声が部屋に響き渡る。
ずびずびと鼻を啜いながら、目が覚めたのは朝の9時。
……完全に、風邪をひいた。
今日がデリバリーサービスの休業日だったのが唯一の救いだ。
肩に毛布をかけて裾を引き摺りながら、リビングで2人分のコーヒーを沸かすクラウドの背中に、のろのろと近寄って寄りかかる。
「……ナマエ?」
おはよう。という彼の言葉に小さく頷く。
「風邪ひいたんで、今日は寝てるねぇー……」
また、ずるずると毛布を引きずりながら部屋に戻る。
がちゃん、とドアを閉めて響く音が、なんだか切ない。
そのままどさっとベッドに寝転んで、頭まで布団を被る。
もう一度鼻を啜ったちょうどそのとき、音も立てずにゆっくりと部屋の扉が開いた。
「……ナマエ、大丈夫か?」
寝ていたら悪いと気を使っているのか、囁くような彼の低い声が耳に届く。
「んー……?んー……。」
「入るぞ。」
自分のあやふやな返事を聞いて、ドアの前で様子を伺っていたクラウドが部屋に足を踏み入れた。
そのまま、背中側のマットレスが沈む。
どうやらクラウドがベッドに腰掛けたらしい。
「……やっぱり高いな。」
その後ろ側から手が伸びてきて、首筋に触れる。
ひんやりとして気持ちよかったのに、その手はすぐに自分の熱でかき消されてしまった。
なんか、寂しい。
それでも何となく、甘えすぎるのは申し訳ない気がして、枕に顔を沈めた。
「辛いか?」
「……んーん、へいき。」
平気……でも、平気じゃない。
1度寂しいと気付いてしまうと、崩れたようにその気持ちが溢れ出す。
触りたい。一緒に居たい。離れたくない。
でも、この風邪をうつしたくないし、クラウドだって一日中自分の面倒を見ていられるほど暇じゃない。
もやもやと考えて、でも熱で頭は上手く回ってくれない。
その時、毛布でこの身体を包んだクラウドが自分を子供みたいに抱き寄せた。
急に近付いた顔が、優しく自分に笑いかける。
「ナマエ、いま寂しいと思ったんじゃないか?」
ぼーっとした頭で、こくりと頷く。
うん、寂しいと思った。なんか、よくわかんないけど。
優しく彼のひんやりした指が頭を撫でて、汗で額に張り付いた前髪をそっと払う。
そのまま服の袖で拭ってくれると、そこに彼の唇が触れた。
「ちょっ、汗……」
「気にしなくていい。」
そのまま頬を撫でて、その手は降りていくと、その胸元をとん、とん、と叩く。
一定のリズムに、だんだんと眠気が襲ってきた。
「……クラウド……?」
「ん?」
その眠気に抗いながら、そっとその頬に手を伸ばして撫でる。
その手に擦り寄るその存在に、満たされていく心。
身体は辛くて、どうしようも無いはずなのに、心は幸せでいっぱいだった。
「好き、」
聞こえているか、聞こえていないか、そもそも言ったかどうかも分からないくらいにぼそっと呟く。
でもどうやらその言葉は彼に届いたようで、クラウドは、うん。と頷いた。
「愛してる。
早く良くなってくれ。はやく、あんたに触れたい。」
もう、触れてるのに。
その言葉も出ないうちに瞼はおりて、意識は眠りに落ちていった。
明日、あっさり完治した自分がクラウドにどれだけ喘がされたのかは、また別の話。