Episode 15





あれから闘技場で満足した私たちは早めに解散し、私はアパートで1人、クラウドの戦いについて思い出していた。

ヘルハウスに突き刺した大剣と、ローチェさんのバイクの斬撃痕。
そして壱番魔晄炉が爆発された時にいなかった彼は、頑なに私の前でアバランチの話をしなかった。



思い出せば思い出すほど、点と点が繋がっていく。

ただ私を唯一繋ぎ止めるのは、クラウドが嘘をつくはずないっていう、根拠もない信頼。



……そんなの、何の証明にもならないのに。



頭の中で堂々巡りをして、結局答えなんて出ないまま頭を抱えた。



「敵、同士……私と、クラウドが、」


ぼそっと呟いて、部屋に溶けた言葉。
はぁ。と息をついた瞬間、私のスマホが着信を知らせた。

ディスプレイには『課長』の名前。
急いで電話に出る。


「も、もしもし!」

『お疲れ様。この間の設計図のことで話があるんだけど、いま時間いいかい?』

「はい、問題ありません!」


思わず、見えもしないのに頭を下げて背筋を伸ばす。
上手くいったか、それとも、その逆だって十二分に有り得る。


『君のアイデアだけどね。』

ゴクリと息を飲んで、耳をすませた。
どうなったの、結局。


『ほとんど却下されちゃったんだけど、一つだけ採用されたよ。
もうこっちで作業が進んでる。』


「……本当ですか!?」

『ああ。よくやったね。でも、これからだよ。』

「はい!ありがとうございます!」


咄嗟に深く頭を下げて、角におでこをぶつけた。
でも、痛くない。
それよりも喜びでいっぱいで、それどころじゃない。

本当に?

私のアイデアが……!?



電話を切ってからは寝ている場合なんて無くて、まだ始発までたっぷり時間があるのに、私は荷物を詰め始めた。








設計図の予備の書類と睨めっこして、どれくらいが経っただろうか。
ふと、ずいぶん外が騒がしいことに気が付いた。


「……ヘリコプター?みんなどうしたんだろ、」

アパートのドアを開ける。


そこには、支柱で戦う人々と、それを銃撃する神羅のヘリコプターの壮絶な構図が広がっていた。



「……なに、これ……!」

一瞬立ち尽くしてから、さっき詰めたバッグを引っ掴んで外に飛び出す。


「マーレさん!!」

「ああ、ナマエ!帰ってたのかい!」

「これ、どういう……何が起こってるんですか!?」

「あたしにもよく分からないのさ、アバランチのメンバーが何かしらで神羅に抵抗しているのは分かるんだけど。」

「アバランチが……」


目を凝らして、彼らの様子を見る。


「……あれは、」



そして支柱に向かう後ろ姿の中に、見慣れた影を4つとらえた。

「ジェシーさん、ビッグスさん……
あれは、ウェッジと……バレット、」



ぐ、と唇を噛み締める。
そうか、皆……


それならきっと……ティファも。





「……みんな、裏切り者だ。」








『アバランチに告ぐ。
貴様らの標的が七番街支柱であることはわかっている。
神羅が脅しに屈することはない。
ただちに支柱から立ち去れ。
繰り返す───』


遠くで、神羅のヘリの流す放送が聞こえる。


アバランチが、支柱を狙ってる?

どうして。

彼らの目的は星の命であって、魔晄炉は爆破しても、プレートなんて落とす理由は無いはず。



ふと、思い立った。

……じゃあ、神羅が、嘘をついているとしたら?


神羅カンパニーの力があれば、スラムの被害程度のものさっさと復興できる。
この間バレットを探していた男たちはきっと、アバランチのアジトを探りに来たんだ。

だったら七番街スラムを潰せば、アバランチの活動拠点を同時に潰せる。



……いや、まさか、神羅がそんな事を。


でも、もしそうだとしたら?
だったら、本当の敵は……神羅?
アバランチは本当に、星を、私たちを守るためだけにあの支柱で戦っているの?




「みなさん!避難してください!
七番街の下から 離れてください!」

ふと、遠くで聞き覚えのある声が聞こえた。


「五番街か六番街へ、なるべく遠くへ!」

必死な声は段々近付いてきて、ついに私たちの元に届く。


「七番街から離れて!早く、遠くへ!」


声の方に顔を上げると、そこには埃や煤まみれになりながら必死に住民に叫ぶ、エアリスさんの姿があった。


「エアリスさん!?」

「……ナマエ!!」

「ちょっとアンタ!なにか知ってるのかい?
支柱は無事なんだろ?」

ちょうど私の声で足を止めたエアリスさんに、マーレさんが咄嗟に声をかけた。
その言葉に、エアリスさんが苦しげに眉を顰める。


「今はまだ。でも……」

「……プレートは落ちるのかい?」


その言葉にエアリスさんはまっすぐ顔をあげて、「はい。」と頷いた。



「信じられねえ」

「あいつら どういうつもりなんだよ」


神羅が、落とすんだ。
このプレートを。
私たちの街を、潰すために。

どうして、こんな事。



「ここで騒いでも仕方ないよ。
さあ、自警団は避難誘導だ!」

「いや、その前に避難経路の確保」

「ああそうだそうだ。ほら行こう!」


立ち尽くす私を横目に走り出したマーレさんが、ふと立ち止まってエアリスさんを振り返った。


「……あんたもアバランチかい?」

思わず私もその言葉に顔を上げて、エアリスさんを見つめる。

その私たちに、彼女は小さく首を横に振った。


「友達です」

「あとで顔見せなって、ティファに伝えておくれ。」








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