夏の終わりに想うこと





はっ、と息を呑む音で目を覚ました。

見慣れた天井から隣に目を向けると、ベッドから身体を起こした彼の姿。



こんな時間にどうしたんだろう。

闇の中で目をこらすと、月明かりに照らされた彼の横顔につーっと一粒の雫が伝っていくのが見えた。
汗が流れるほど、この部屋は暑くないはずだけど。


「……クラウド、?」

声をかけると、驚いたように見開かれたエメラルドの瞳が私を捉える。
その瞳は揺れていて、いつもと様子が違う。


「クラウド、どうかした?」



彼は時々、何かの向こう側を見つめていることがある。

それがきっと何か遠くにあるものなのは薄々気が付いていたけど、あえて何も言わないでいた。

でも、こんな様子の彼、見ないふりなんて出来ない。


「ナマエ、」

弱々しく私を呼ぶ彼の声。
そっと私も身体を起こして、優しく彼の背中をさする。


「嫌な夢でも見たの?」

「いや……なん、でも……何でも、ないんだ。」



起こしてすまない。と彼が私から目を逸らして荒々しく髪を掻く。


「ううん、大丈夫だよ。どうしたの?」


頑なに口を閉じるクラウドの肩をそっと抱き寄せて、顔を覗き込んだ。




その瞬間、はっとする。




「クラウド、泣いてるの……?」

私の驚いた声に、クラウドは自分の頬を指でぐいっと拭った。


「俺が……?」



指についた雫を見た彼が、動揺して声を震わせる。

ふ、と息をついた彼の横顔が消えそうで、抱き寄せた腕に力を込めた。


「大丈夫だよ、クラウド。大丈夫。何も怯えることなんて無いよ。」



そう言って髪を撫でた私の手を、クラウドが恐る恐る掴む。


「……ある、んだ。」


普段の強がった彼の口からは、絶対に出ることの無い言葉。
それを聞けた優越感で満たされる反面、思うのは、それが一体何なのか。

何も言わず、彼の言葉を促すように私の手を握ったその指を撫でる。


「……ナマエを、失いたくない。」


震える声と揺れた瞳で訴えるその様子は、まるで霞が空に溶けるみたいに儚い。

ぐっ、と何かが心を掴んで、思わず彼を強く抱き締めた。



私の首元に、彼が顔を埋める。
何だか、子供の頃のクラウドを見ているみたいだ。

こういう時、あのときの彼はどうしたら安心したっけ。




そうだ、とある事を思い出して、彼を抱き締めたままとんとんと背をたたく。


「大丈夫、大丈夫。ずっとそばにいる。
2人で支え合うって決めたでしょ?」


親を失って、友達なんていなかった幼い頃に2人で決めた約束。
2人揃えば最強だって笑いあった事を、あなたも忘れてなんて居ないはず。


「クラウドとナマエ、2人がいれば、」

優しく彼に囁くと、耳元で小さく笑う声が聞こえた。


「……最強、だったな。」



扇風機の風に煽られて、彼の髪が頬を撫でる。
暑いのも気にせずに、私たちはしばらく抱き合った。


1度きりの この夏を、2人で超えていこうよ。

心を重ねるみたいに、彼の唇にそっとキスをした。








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