DOGS





タバコに火をつけて、安い酒を煽る。
雑に結んだ髪を引きちぎるように解いて、ガリッと頬を掻いた。

街ゆく男を見て考えるのは、誰が1番さっさと終わらせてくれそうかって事。


あいつはダメ。少し顔がいいのを鼻にかけて、あたしみたいな下品な女は相手にしない。

あいつもダメ。1度関係を持ったらカレシ面してくるタイプ。






小さい頃に両親を失って、何も知らないガキの私が生きていく術は1つ、男に媚びを売ることだけだった。
別にそれが悲しいとも思ったこと無いし、それで明日も生きていけんなら別に良い。





はぁ。とため息をつく。しかし今夜はろくなのが居ない。
握った缶を煽るともう空で、それも私の苛立ちを助長させた。


「……ったく、丁度いいのはいねえのかよ。」

誤魔化すようにタバコを吸って、空に吹く。

場所を変えるか、と立ち上がった瞬間、ひとつ、後ろに誰かが立つ気配を感じた。

昔の男か?
いや、こんな足音を殺して近寄って来るような男は記憶にない。
ぐっと、心臓が掴まれるような危機感が私を襲った。



「っ誰!」

そいつが近付くと同時に、その火を顔めがけて振りかざす。
その手は意外にも、その男に受け止められた。


「おぉっと。
そんな行儀のなってない女はモテないぞ、と。」

赤毛?ここらじゃ見ない顔だ。


「誰、あんた。」

「お前こそ、こんにちはも言わずに殴りかかんなよ。」



腕を引こうと力をいれる。……が、びくともしない。

なんだ、こいつ。



こいつは危ないと、本能にも似た何かがガンガンと警鐘を鳴らす。



「っ、おい、離せよ……!」


もがく私の手に持ったタバコを奪い取って、そいつが咥えた。

ふ、と息を吐いてからそれを踏み消す。



「お酒とタバコは20歳になってから、って母ちゃんに習わなかったか?」

「知るか、いいから離せよ!」


手を握るそいつの腕に噛み付こうと歯を立てる。


その瞬間。


ぐっと腕を引かれたかと思うと、視界が反転して、気付けば私は地面に押し倒されていた。


ガン、と音を立ててそいつが私の上に跨る。
肩が押さえられて身動きが取れない。



「何のつもりだ……!」

「口のきき方がなってねえみてえだな。
いっぺん黙れよ、うるせえ女は好みじゃねえの。」

「あんたの好みなんて知るか……っ」



それでも暴れる私の首筋に、そいつがロッドを押し当てた。

「お前、名前は?」

「誰が言うかよっ」

「感電したくねえならさっさと答えろよ、と。
名前は?」


バチバチっと、顔のすぐ近くでロッドが唸る。
……くそっ、勝てない。




「……ナマエ。」

諦めて、渋々質問に答える。
その様子を見て、そいつが満足そうににやりと笑った。


「ナマエ、歳は」

「16。」

「へぇ、まだガキじゃねえか。」


そうか……と、そいつが顎に手を当てて考える素振りを見せる。
うんうん、と何かに勝手に頷いて、また私に視線を落とした。





「お前、神羅に飼われてみねぇか?」

「はっ……?」


突然の言葉に、思わず間抜けな声で聞き返す。



「あたしが、何が楽しくて神羅なんかに……」

「見たところお前、居場所がなくて困ってるクチだろ。
俺達なら力になってやれるぞ、と。」



馬鹿なこといってんじゃねえよ。
そいつを睨むように見つめて、目を伏せる。


「それに、お前なら戦力になりそうだし。」

「戦力?」

「お前の実力を買ってやるっつってんの。」


実力……私の力?


人に媚びるしか脳の無い私の?



馬鹿らしくて、ふっと笑う。




「あんたが、あたしの何を知ってんだよ。」

何も知らないくせに。


「んあ?ああ、知らねえな。でも、」



ぐいっと私の顎を上げさせて、その緑の瞳が私を捕まえる。



「見たものは信じる。あんたは役に立つ。」

「……役に、?」


役に、立つ。

そんなこと言われたのは初めてだと思った。
私の力が、必要とされてる……こいつに?



なんだか可笑しくて、思わず吹き出した。



「あんたみたいな、見たとこ良い暮らししてる人間に、あたしなんかの力が必要なの?
あっははは、何だよそれ。」


首を傾げてじっと私を見つめるその瞳を、ふんっと鼻で笑って見つめ返す。


「……いいよ、飼われてやるよ。あんたにならな。」


その言葉に、赤毛を揺らしてそいつが笑った。
私の上から退いて、私に手を差し出す。

それを無視して、立ち上がってから服の汚れを払った。


「……いいね、お前。気に入ったぞ、と。」

は、勝手に言ってろ。



それと、とそいつが私の肩を抱く。

「俺も飼い犬仲間、な。」


くは、と可笑しそうに笑って、そいつはすたすたと歩き出した。
赤い尻尾が目の前を揺れるのを追う。




「なあ。」

「ん?」

「あんた、名前は?」

「レノ先輩と呼べよ、と。」

さあ、ご主人様の元に帰るぞ。と、そいつがまた歩き出す。


「おいレノ!あんた、一体何者だ。」

「レノって、おめぇよ……」

はぁ、とため息をついて、レノが私を振り返った。






「そりゃあおめぇ、泣く子も黙るタークス様よ。」








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