夢と悪夢はイコールで繋がる
この世界は残酷だ。希望は無い。
俺は、それなりに苦労して生きてきたと思う。
家族も友人も失った。己さえ失いかけた事もある。
それなのに、俺はまだ苦難を受け入れなければならないのか。
こうなれば、いっそ……この館から抜け出してしまおうか。
「……って顔してるね。」
「嫌だ、本当にやりたくない。ナマエ、」
「もう……分かるけどさ、仕方がないでしょ?
アニヤンさんに孤児院を建てる資金を出してもらうには、クラウドがステージに立ってくれないと。」
彼女の言葉に、がくりと肩を落とす。
どうして、こんな事に。
「……どうしても、なのか。」
「うん、どうしても。」
「ナマエが代わりに、」
「だめ、あの人はクラウドをご指名なんだから!
ほら。男らしく覚悟を決めなさい!」
かつての旅の道中、さらわれたティファを救うために、ウォールマーケットの蜜蜂の館のステージに立ったことがあった。
それから俺は妙にあの男に気に入られたらしく、ナマエがあいつに資金援助の相談を持ちかけると、
「クラウドくんが舞台に立つというなら、喜んで援助しよう。」と。
エッジに館を建設し、再び成功させた男だ。
資金を出す余裕もあるのだろう。
そうして俺は、ナマエに文字通り背中を押され、いま舞台の袖に立たされている。
あの時と違って女の格好をしなくていいのが唯一の救いだ。
「でも、似合ってると思うけどな。
クラウドがそんな衣装着てるの見たことない。」
「あってたまるか。」
衣装は 黒い細身のパンツに白い長めのシャツ、上にはレザージャケットと、なんとも窮屈だ。
動きずらいことこの上ないし、慣れない服装に心も落ち着かない。
「髪の色も映えるし、かっこいいよ。私は好きだけどなぁ。」
ナマエが俺の髪を撫でて、首を傾げて微笑む。
……俺に無理を通すときの顔だな、それは。
「頑張って、私の自慢のクラウドさん。」
こうなればナマエはテコでも動かない。
深くため息をついて、渋々ステージに目を向ける。
「はぁ……分かった。さっさと終わらせてくる。」
「うん。行ってらっしゃい!」
演者のハニーガールに手を引かれ、ナマエに背を向けて俺は舞台に足を踏み出した。
「あ、クラウド!」
どうにかステージを終えて館を出たところで、ナマエの声が俺を呼ぶのが聞こえた。
「……ナマエ。」
「すっっごくカッコよかった!
ダンスもキレキレで上手だったし、私、無料で見せてもらったのが申し訳ないくらい!」
興奮気味に俺に抱きつくナマエは、満面の笑みで俺を見つめる。
「アニヤンさんも言ってたよ、クラウドのお陰で集客も盛り上がりも予想以上。素晴らしいステージだったって!
無事に資金も援助してくれるみたい。大成功だね!」
一度目を伏せて、クラウドのお陰だよ、ありがとう。なんて真剣な面持ちで言われれば、正直悪い気はしなかった。
「……孤児院を建てるのは、ナマエの夢だったな。」
「うん。もう、悲しい顔した子供たちを見たくないんだ。」
「そうか。それなら、俺の踊る意味はあったのかもな。」
ナマエの頬を撫でると、ナマエは幸せそうに笑う。
俺の1番好きな表情。
そっと引き寄せて、彼女にキスを落とした。
「そういえば、クラウド。衣装もらってきたの?」
ナマエが俺の服の裾を引く。
「ああ。俺のための特注品だから置いていかれても仕方がないって。」
「そっか、うん。いいもの貰ってきたね。」
帰ろうか、とナマエが俺に腕を絡ませた。
2人で七番街のスラムに向けて歩みを進める。
ナマエの鼻歌が聞こえて、よっぽど嬉しかったんだろうと思わず頬が緩んだ。
また何かしらで、こうやって喜ばせられたらいいなと、彼女の横顔を見つめながら考える。
……二度とステージに立つつもりなんて無いけどな。