カクシゴト
生きていれば、人間 大なり小なり隠し事を抱えるものだと思う。
例えば兄弟のプリンを食べて母親のせいにした事があるだとか、誕生日プレゼントを数日後に無くして急いで同じものを買ったことがあるだとか。
それらの隠し事が"小"だとすれば、私のはきっと"特大"だろう。
ウータイで生まれて、ウータイに育てられた私が恋したのは、敵国ミッドガルのど真ん中に鎮座する神羅カンパニーの副社長、ルーファウス神羅。
今、彼が私の隣で眠っていると周りに知られれば、どんな扱いをされるかなんて分かったもんじゃない。
昨日の夜のことなんてもちろん死んでも言えないし。
彼だって、周りをどう誤魔化してここまで来ているのか。
私と一緒にいるなんて誰かに知られたら、タダじゃ済まないだろう。副社長としての立場も危ういかもしれない。
少しくまが出来た彼の目元を、指でなぞる。
仕事、忙しいんだろうな。
久々に会うからって気をつかってくれたのか、疲れたそぶりなんて全く見せなかったけど。
そんな彼の瞼が震える。
「ん……、」
そっとその目が開かれて、シルバーともブルーとも言える瞳が私を捉えた。
「ナマエ、起きていたのか。」
くっと引き寄せられて、軽くキスを落とされる。
「おはよう。」
朝日が彼の髪に反射して、私の頬にかかる。
「おはよう、ルーファウス。
よく寝られたみたいでよかった。
コーヒーでも淹れようか?」
ルーファウス、なんて最初は呼びずらいことこの上なかったんだけど、彼はこの気を遣われてない感じが心地いいんだって言ってた。
周りは彼の顔色を窺うような人ばかりなんだって。
なんだか、どちらの気持ちも分かる気がする。
「ああ。ありがとう。」
彼の額に口付けて、裸のままベッドを出る。
適当にそこら辺のシャツを羽織って、お湯を沸かした。
大していい物なんて置いてない私の家にある、場違い感満載な高級コーヒーの缶を開けて溢れるのは、深い豆の香り。
慣れた手つきでお湯を少し注いで、少し蒸らす。
彼から教わった、美味しいコーヒーの淹れ方だ。
ふと、後ろから抱きしめられる。
彼も適当に下だけ履いていたみたいで、足首を擽るのはシルクの触感だ。
「コーヒーを淹れるのも、上手くなったな。」
「先生が良かったのかも。」
「当然だ。」
ふっと小さく笑って私の首筋に鼻をうずめた彼が、突然そこに吸い付く。
「んッ、何?」
首だけで振り返ると、彼が悪戯っぽく笑った。
「次に会うまでに、他の男に取られたら困るからな。」
「他の男に私が靡くと思う?」
「いいや。ただの保険さ。」
「あなただけズルい。」
身体を彼に向けて、首に腕を回す。
首を傾げて彼を見つめると、ベッドの中でしたそれよりも深い口付けが落ちてきた。
啄むように口付けてから、ゆっくり舌が絡む。
彼の髪に指を通すと、そっと唇を離して、彼の白い首筋に痕をのこした。
赤く咲いた花に満足して小さく笑う。
彼の胸元に擦り寄ると、抱きしめられたまま髪を撫でられて顔を覗き込まれた。
「いつも、お前に我慢ばかりさせているな。」
ちゅ、と音を立てて唇が重なる。
「本当は毎日隣に居てやりたいんだが……そうもいかん。すまない、分かってくれ。」
申し訳なさそうに私を見つめる彼の姿が、昔一度会わせてくれた彼の犬の叱られている時の顔と重なって、思わず笑ってしまった。
「……おい、真面目に言っているのを分かってるか。」
「ふふ、ごめんなさい。
確かに寂しいこともあるけど……大丈夫よ。
貴方は、私から離れられないでしょう?」
彼の頬にキスして見上げると、額が合わさってから彼が目を閉じた。
「ふっ……ああ。その通りだ。
私はお前には隠し事出来ないな。」
「残念でした、私につかまったのが運の尽きだったね。」
「まさか。この上ない幸せだ。」
彼が私の腰に腕を回して、食べるみたいに私を口付けた。
まだコーヒーも飲んでないのにな。
彼との一日は、まだ始まったばかりだ。