Episode 7





店のドアを開けて、外に出た。
ふと顔を上げると、昨日と同じ形の作業着を着たナマエの姿。


「あっ、クラウド!」

彼女も俺に気付いたのか、視線に俺を捉えた途端 駆け寄ってきた。


「ナマエ?帰ってたのか」

その姿に、荒れた心が多少凪ぐのを感じる。
ただ、ナマエはそれどころじゃないといった様子だった。


「そんなことより、ちょっと来て。」

俺の手を引いて向かったその先には、いかにも怪しい男たちの集団。
七番街スラムの住人というわけでは、どうにも無さそうだ。


「あの人たち、さっきからここら辺をうろうろしてるの。
右腕が銃の男を探してる、って」

右腕が銃の男なんて、1人しかいない。


「……バレットの事か。」

「うん、たぶん。でもどうして……」


……アバランチの話は、ナマエの前ではタブー。
ジェシーの言葉を思い出して、どうも言えずに口を噤む。
とりあえず、あの男たちをどうにかしなければ。

ナマエの肩に手を置いて、安心させるように目を合わせた。
頼りきったような瞳。
どこか自身の心が揺れた気がしたが、きっと兄弟を守りたい庇護欲があればこんな感じなんだろう。


「ここで待っていろ。すぐ戻る。」

「わ、わかった。」


頷いて俺を見つめる彼女に頷き返してやって、男たちに歩みを進める。

声をかけるまでもなく、男たちは俺を見て向こうから寄ってきた。


「兄ちゃん、近所の人かい?」

「まあな。」

「右腕が銃になってる大男を知ってるか?
このあたりに根城があるらしい。」

「どうだろう……」

「するどいね。金のニオイをかぎつけたな?」

「500でどうだ?」

「200」

「300だ。」

「まぁいい。じっくり聞かせてもらうぜ。
……こっちだ。」


視線の端に、不安そうに俺を見つめるナマエの姿がうつる。
大丈夫だ、すぐ戻ると言ったろ。




男に連れられて、スラムのはずれの空き地に連れてこられる。

1、2……4人か。この人数なら敵じゃないな。


「おい、男の居場所知ってるんだろうな?」


「二度も言わせるな。」

奴らの言葉に鼻で笑って返す。


「どうだろう」


てめえ、知らねえんだな!と、ひとりが俺に怒鳴る。
神羅の末端か、と呟くと、聞こえたのか、帰ってきたのは
「神羅も一目置くおかたのアシスタントよ。」と言う自慢げな声。


「だからどうした」

威勢よく啖呵を切って武器を構える奴らに、俺も剣を握る。

一斉に掛かられたが、この程度なら大したことない。
一人、また一人と、刀を振っては地面に倒していく。
与えられる攻撃も適当に流して、遂に男の1人を追い詰めた。


「右腕が銃の男の話だったな」

尻もちをついて俺を見上げるそいつの喉元に、剣の切っ先を向ける。
さっきまでの調子はどこへ行ったのか、男は目を泳がせて顔を青くしていた。


「いや、その……」

「なぜ探ってる」

「オレは命令されただけで、なにも知らねえんだ。だから、命だけは……!」


……本当に知らされていないんだろうな。哀れなやつだ。
バスターソードを振り下ろして、ついに最後の1人も地面に突っ伏した。


気になるのは、男たちの言葉。


「神羅がバレットを?」

アバランチはまだ顔が割れていないはず。
どうして。


……そこまで考えて、アバランチにはそもそも情もないし、ただの仕事だったと思い出した。


「……俺には関係ないな。」

小さくため息をつく。


「ナマエが待ってる、迎えに行くか。」

スラムの心得そのいち、だったか。
合流したら、アパートに戻ってすぐに休もう。





大丈夫かな、クラウドが怖い男の人たちに連れられて行った方向を見つめる。

でも、私の心配とは裏腹に、そう長くかからずクラウドは戻ってきた。


「クラウド!」

咄嗟に走りよって、怪我してない?と聞くと、


「あの程度の奴らに、俺がやられる訳がないだろ。大丈夫だ。」

と、あっさり返されてしまった。


「大丈夫なら、いいけど……」

「アパートに戻ろう。ナマエも仕事終わりで疲れてるだろ。」

クラウドに軽く背中を押されて、2人で天望荘に向かう。


「結局、あの人たちの目的は何だったの?」

「さあな。あいつらも上に命令されただけで何も知らないようだった。気にしなくていい。」


そんな話をしながら、2人でアパートの階段をのぼる。



のぼりきったところで目線をあげると、


「おかえり〜、遅かったね!」

まるで、お嫁さんが旦那さんにするみたいに可愛く腕を組んでクラウドに笑いかけるジェシーさんの姿が目に入った。

えっ、付き合ってるの?
一瞬パニックになったが、すぐに冷静になる。
いやいや、まだここに来てばかりでそれは無いよね。


「なんつって。
ナマエちゃんもお仕事お疲れ様〜、おかえりなさい!」

案の定、彼女は茶化したみたいに言って、私にもひらひらと手を振った。


「あ、はい!ありがとうございます、」

私たちの顔を見て、ジェシーさんが盛大にため息をついた。

……つまらないやつって思われちゃったかも。
でも、肩を落とした彼女はすぐに顔を上げてクラウドを見る。


「話があるんだけど、入れてくれない?」


その声に何かを察したのか、クラウドも「ああ。」と自分の部屋のドアノブに手をかけた。


「ナマエちゃん、悪いけど私たち二人っきりの大事なお話があるから、クラウド借りるね〜」

「わ、わかりました。」


……うん、何も無いよね。まさか。

私も自分の部屋のドアを開けて、ベッドに腰掛ける。
どうしても隣の部屋の2人が気になるけど、首を振って自分のバッグから設計図の束を取り出した。

さあ、仕事仕事。
兵器開発部門はヒマじゃないんだ。








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