Episode 5





俺がここ七番街スラムで迎える初めての朝。
JSフィルターとやらの交換に付き合わされてティファについてまわって気付いたのは、あいつが随分この町に馴染んでいるという事だ。

人付き合いが得意じゃない俺に比べて、ティファは愛想がある。
さっきだって、大家のマーレにその無愛想な顔をどうにかしろと言われたばかりだ。
そう言われても、はい分かりましたとへらへら笑うのは性にあわない。
というより……苦手だ。



自警団や住民に頼まれた何でも屋としての依頼をあらかた終えて、それなりに色々あったが自室に戻って来た。
自分のところのフィルターを交換しろとは言われたが……これか。
つくりはそう難しくなかった。
よし。余裕だな。
手早く交換して、ティファが手間取っていないか見に行く。
部屋を尋ねると、ちょうどそっちも交換を終えるところだった。
できた、と立ち上がると、おもむろに俺に歩み寄ってくる。

「聞かせて、村を出てからのこと。」

「え?」

ナマエにも似たようなことを聞かれたのを思い出して、思わず間の抜けた声で聞き返してしまった。
彼女に聞かれた時は、ちゃんと答えられなかったな。

「約束したよね。ほら、自警団のところで」

「あ……ああ。」

「ん?」

誤魔化そうと言い訳を考える間もなく、ティファが俺の顔を覗き込んだ。
……逃がさない、とでも言いたい顔だな。
重い口を開いて、自分の記憶を辿る。


「戦争中、ソルジャーは英雄扱いだった。」

「うん、毎日ニュースを見てた。」

「でも、俺がソルジャーになった頃には状況が変わっていたんだ。
憧れていたような仕事はなくて、神羅のために働く ただの……」

自分とこの剣が切ってきた人々を思い出す。
英雄セフィロスに憧れていたはずの俺は、クラス1stになれはしたが、それから何をしてきただろうか。

思わず、また口を閉ざす。


「……ごめん、話したくないよね」

「剣を使う仕事だ、ひさしぶりに会ってするような話じゃない。」

「うん、わかるよ。」


重い空気を払うように、ティファが俺を見た。

「でも、不思議だね。
お別れしたあのとき あの場所から、うんと離れたこんなところでまた会えるなんて。
ナマエだってそう。ずっとクラウドに会いたがってたんだよ?」

「ナマエが、か?」

「うん。そもそも彼女がこの町に来た理由だって…」

そこでティファが小さく笑う。
理由?何かあるのか。

「ううん、なんでもない。
そうだ、3人で再会のお祝いしよう!うんとおしゃれして」

ナマエもきっと喜ぶよ、とティファが嬉しそうに俺に駆け寄る。

「おしゃれ?」

「わたしだって、する時はするよ」

「服、あるのか?」

少し茶化すように尋ねる。


「ないけど、用意するの。どういうのがいいかな?」

どういうの、なんて言われても……


「……大人っぽいの」

それでナマエは……ナマエはどんな服でも似合いそうだな。
昨日 作業着のような服を着ていたのは仕事柄だろう。
どこか思い詰めていたようでもあったし、おしゃれするなんて言えばティファより喜ぶかもしれない。


「お互い、歳取ったもんね。」

ナマエも、ずいぶん大人になったから。なんてティファが微笑む。

私と釣り合う服を選んでね。と言うティファに、わかった。と頷いて見せた。


「楽しい計画って、いいね。」

「ああ、いいな。」

「さて、楽しい気分になったところで、店 行こうか」

「休まなくていいのか?」

「時間、もったいなくて。マーレさんには、内緒。」



うん、悪くない。

ティファとナマエの楽しく笑い合う姿を思い浮かべて、柄にもなく、少し楽しみかもしれないと思った。








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