きょうがしんねん





「これ、全部捨てていいのか?」

「あー……申込書だけ入ってねえか確認しといて!」


えっちらおっちらダンボールを運ぶクラウドが、私の指示にこくりと頷いてまた歩いて行く。

今度は違うダンボールを抱えてくるから、それは玄関に。と指示を出すと、また頷いて去っていった。

……犬みたいだな。


今年の精算は今年のうちに!
年の瀬ののんびりとした雰囲気にうとうとしているクラウドを叩き起して、私たちはいま、部屋兼事務所の整理に勤しんでいる。

今年も、ドタバタしてたら終わったな。
なんて去年も言ったっけか?

ちなみに抱負として掲げていた「言葉遣いを正す」は、12月31日現在まだ達成される見込みなし。
これに関しては来年に持ち越しか。


「さっきので最後だ。」

「あ、マジ?ありがと。
じゃあ……まあ、粗方かたづいたな!」

「うん、お疲れ様。」

「私はなんも働いてないよ。
クラウドありがとな。」

「ナマエの指示が無ければ動けなかった。」

「優しさが沁みるぜー」


さて、一息つくためにもお茶でも入れてやるか……と立ち上がった瞬間、
突然私の手が彼に引かれる。
そのまま身体が彼の腕の中に勢いよくおさめられた。


「うおっ、ど、どうした……?」

「今年も、あんたがいてくれて良かった。」

「な、何だよいきなり……」


とつぜん改まるクラウドがなんだか擽ったくて、思わず目をそらす。


「こうやってちゃんと礼を言えるタイミングなんて、そうそう無いと思って。」

「そう、ですか……」


逸らした目線を逃がさないと言うように、彼の手が私の頬を掬った。


「ナマエ。」

「何、っん……」


そのまま、蛍光灯から生まれた私たちの影が重なる。
それは何度か合わさって、それからゆっくり離れた。


「来年も、一緒にいてくれるか?」

「嫌だと思ってんなら、これ付けてねーよ。」


薬指に輝くシルバーリング。
一般的な婚約指輪より安い物だそうだが、私はこれに彼の一生懸命さが詰まっている気がして大好きだ。


「ふっ……そうだな。」


なんだか少し照れくさそうに笑う彼の頬に、今度は私が手を添える。


「クラウド、」

「うん?」

「その……なんて言うか……
ありがとう。こんな私を隣に置いてくれて。」

「ナマエじゃなければ、隣にいて欲しいなんて思わなかった。」

「そりゃドーモ……」


そう言ってちらりと時計を見やった彼。
こちらをもう一度見つめ直したと思えば、少し悪戯っぽく笑った。


「あけましておめでとう。」

「えっ……?
あ、おい!年明けてんじゃん!マジか!」


ジャンプしてねえよ!と不満を垂れる私に、彼が「してやった」と言わんばかりの笑みを見せる。
もう何度目かの2人での年越し。
行動パターンはバレてるらしい。



「おめでとう、クラウド。
今年もどうぞよろしく。」

「こちらこそ。」


胸元に寄り添うと、髪を撫でられる感覚。
それに擦り寄ったら、腰を抱く手に少し力がこもった。


「なあクラウド、」

「ん?」


腕の中から顔を上げる。


「もっかいキスして。」


はいはい。なんて呆れたみたいに笑うその息が頬を掠めた。
今年もこんな幸せが続きますように……なんて願いは、その薄い唇に呑み込まれていった。








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