覚めない夢が見たくて





「ザックス、」


夕日に照らされた彼が、私の声に振り向く。


「ん?どうしたんだよ、ナマエ。
あ……もしかして、寂しくなったのか?」


そう明るく笑う彼が広げた腕に、私は飛び込んだ。


「だってザックス、急に居なくなるから。」

「悪かったって。でも、こうしてちゃーんと会えただろ?」


自慢気に笑う彼。
その胸板に擦り寄る。


「満足、出来ないよ。」


そう言った私の額に落とされるキス。


「ったく、ナマエはワガママだな。
まあそんな所も可愛いんだけどな!」


その声色は、どこか不自然なほど明るい。

次に見た時には、私を見下ろした彼の表情は、一変して真剣なものに変わっていた。
頬を撫でた指先が私の顔を上げさせて、それに合わせるように彼が少しだけ屈む。


「目、閉じて。」

「ん……」


彼の掠れた声に従うと、唇が重なった。
そして何度も、啄むようにキスが降ってくる。

やっと離れると、ザックスは小さく呟いた。



「どんどん綺麗になって行くな、ナマエは。」


妙にしみじみと語る彼。
「どうしたの、いきなり。」なんて恥ずかしいのを誤魔化せば、彼は逃がすまいとその両手で私の頬を包んだ。


「だってそうだろ?
俺も置いていかれないように、もっと男を磨かないとな。」


うんうん、と頷くザックス。
……でも。


「……置いていったのは、ザックスでしょ?」


そう言うと、「だぁから、悪かったって。」と、誤魔化すみたいにまた唇が重なる。



「……でも、大丈夫だ。ナマエ。
俺はちゃんと、お前を見てる。」

彼の言葉に、こくりと頷いた。
その私を見て、彼がどこか安心したように笑う。
その瞳は逸らされて、それから何かに気が付いたような様子を見せると、悲しそうにその顔が一瞬歪んだ。


「ほら、もう夜が明けるぞ。」

「また、会える……?」

「会えるさ、何度でも。」


またね。

そういう前に、手先に感覚が戻ってきて、私はぱちりと目を開いた。

見慣れた天井。

隣に誰もいない、1人では大きすぎるベッド。



また今日も、目覚めてしまった。



「……嘘つき。」


そう呟いても、もう、答えてくれるあの人は隣には居ない。


それでも人間は薄情だから、私はきっと、少しずつ彼の欠片を思い出の奥に落として来るんだろう。


まずは、あの優しい声を。
次はあの温かい熱を。
それからあの甘い香りを。
いずれかは、あの柔らかい笑顔を。

そしてきっと、呼び慣れたあの名前まで。


1日、また1日、彼の記憶が私から剥がれ落ちていく。

これなら一生目覚めずに、彼の隣に居られれば良いのに。


そんなこと言ったら怒られそう。
でも、それでもいいかもしれない。


頬から零れた雫が、ベッドに染みて、消えた。

あの人を失って、7日目の朝の話。








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