溺れるみたいに 前編
私の彼氏は、冷たい。
いや、勘違いしないで欲しいんだが、別に不満とかそういう訳ではない。
ただ、冷たい。
「レノ!今ヒマ?遊び行こ!!」
「んぁ?俺はお前みたいに暇じゃねえの。
後でな。さ、行った行った。」
「レノ、すき!」
「はいはい。知ってるよ。散々聞いたぞ、と。」
……こんな調子で。
別に嫌われているんじゃない。
レノがちゃんと私を想ってくれてるのは分かってるし、私たちは信頼し合ってると思う。
でも、時には私だって、甘い言葉が欲しかったり……する。
そんなこと、恥ずかしくて言えないけど。
2年前のメテオ災害をきっかけに空中分解した神羅カンパニー。
その混乱に紛れ、気付けば私はずっと身を置いていたタークスから、随分と離れたところにいた。
それは他でもない、心配性のレノの仕業なんだろうけど。
ルードもイリーナも、それがいいって言って、無理やり連れ戻そうとはしないでいてくれた。
ツォンさんと社長は、「レノのわがままはどうしても気付いたら押し通されているから」と言って放ってくれている。
やっぱり、素敵な私の仲間だなって、そう思う。
「ナマエ。今日はタークスのヤツらと飲みに行ってくる。
お前も来るか?」
その日は、珍しくレノからお誘いがあった日だった。
でも、そのお誘いに小さく首を振る。
「ううん。私がいたらできない話もあるでしょ?
いいよ、行っておいで。」
実際、私はもうすっかり任務からも神羅自体からも離れてしまっている。
秘密主義の神羅カンパニー、そしてタークスだ。
いくらアバランチと共に戦った仲間であろうと、明かせない情報は多いはずだから。
みんなによろしくね。
私の言葉に歯切れの悪い返事を残して、彼はばつの悪そうな顔で出ていった。
『あっ、もしもしナマエ?』
レノが家を出て数時間、もう日付も変わってしまって少し経っている。
半分夢の世界に足を突っ込みながらテレビを見ていた私を現実に引き戻したのは、携帯の着信音。
もしもし、と言い切る前に聞こえた声に、私は頬を緩ませた。
「イリーナ!どうしたの?みんなで飲んでるってレノから聞いたよ。」
驚きつつも尋ねると、やれやれとでも言いたげにイリーナが受話器越しにため息をついたのがわかる。
『もー、先輩ったらナマエを連れてこいって言ったのに素直になれな、うぐっ……!!』
「い、イリーナ?」
呆れたような声が押さえられたような一言と共に受話器から引き剥がされる。
『ちょっと、何するんですか!?』
『お前が口を滑らせたら、レノから叱られるだけじゃ済まないぞ。イリーナ。』
耳を済ませると聞こえてきたいつもの口論に、思わず笑い声が漏れた。
その笑い声を拾うように、打って変わって低い声が届く。
『すまない、ナマエか。』
「ん?あ、ルード?久しぶり〜」
軽く談笑してから、どうしたの?と尋ねる。
すると、ああ。と答えたルードがどこか申し訳なさそうに口を開いた。
『……レノが酔い潰れてしまってな。今から家に届けるが、大丈夫か?』
「えっ、レノが?良いけど……」
『15分後には着く。』
がちゃりという音と共に、電話が切れた。
それにしても、レノが酔いつぶれるなんて珍しい。
何かあったのかな。と心配していた気持ちは、彼の到着と共に吹っ飛んだ。