出来心




机の上にふわ、と広がった髪。散らばった前髪からちらりと覗く丸い額。
 なんだかキスしたくなった。
「……んぅ」
 こぐまの鳴き声のような声を立てて、彼はゆっくりと寝ぼけ眼を開く。ぼんやりと私を見上げ、ぱちぱちとまばたきをする。それでも目がはっきりしないようで、ごしごしと瞼を擦りながら起き上がった。
「ん……あれ、ここは……」
「寝ぼけすぎ。キャピタルだよ」
「皆は?」
「まだ来てない」
「店長は」
「どっかいっちゃった。寝不足?」
 私が来たときから爆睡してたよ、というと、彼は途端に真っ赤になって、口元をごしごしこすったり、髪をわしゃわしゃにかき回したり、目元をぎゅっと手のひらで抑えたりした。
 でも、気付いてない。
 おでこの片隅、私の薄紅色のリップの欠片が残されていること。
 彼が前髪を手で整えると、隠れてしまった。
 彼は私と目が合うと、一瞬逸そうとして踏みとどまり、おどおどと見上げ、おずおずと訊ねた。
「ね、寝癖ついてる……?」
「ううん、だいじょうぶ」
 君はいつだって可愛いよ。


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