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R18…攻めと受けの身長を続けて6ケタ



▽透明人間イズム(主笙)




きょうは晩飯外で食うか、という笙悟の提案に「いいよ」と返すまではいいのだが、そこからじゃあどこで食うのかを決めるまでがなかなか長い。しばし無言でスマホをいじり、たまにはちょっと遠くまで(と言ってもせいぜい徒歩で行ける最寄り駅の反対側、とかそんなもんだが)足を伸ばしてみるのは如何か、と周辺の地図を検索してみたりした俺たちが30分後に座っていたのは、結局のところ家からいちばん近くて安い飲食店、いつもの中華チェーン店のテーブル席だったりする。部活帰りの学生やら仕事終わりの会社員やらで最も混み合う時間帯を外したおかげで席にはすんなり座れた。
「気ままなフリーターの良さはごはんの時間の自由が利くとこだね」
「……ああ、まあな、そうだな、うん」
ちょっとフクザツそうな顔をされた。席を案内してくれたフロアバイトの女の子が、ご注文お決まりの頃にまたお伺いします、と戻っていく。いつ見ても「俺らのこと真夏の野球部か何かと勘違いしてるのか?」と疑いたくなる無闇なサイズのピッチャーからコップに水をなみなみ注いで渡すと、笙悟は「こんなに飲まねえよ」と苦笑した。
「何にする」
「うーん、どうしよっかな、どれでも」
「どれでもって……お前そういうのよくないぞ」
「だってほんとにどれでもいい……笙悟が選んで。そんでちょっとずつ交換して色々食べようよ」
「んー……」
笙悟は何か言いたげな表情のままメニューを捲っていた。笙悟は味噌ラーメン、俺には餃子とチャーハンのセットを頼んで、時々交換して食べた。当たり前だけど、いつだって同じ味だ。特別美味いわけでもないけど不味くもない、だからおいしい。みんな無意識のうちにそういう安心と不変をチェーン店に求めているのだと思う。

「……なあ、ほんとはどこか別に行きたい店あったのか」
「んーん、そんなことないけど」
「俺に気遣ってる?」
「いやいや」
「…………」
「言いたいこと我慢して自己主張しないんじゃなくて、主張したいことがそもそもあんまり無いの」
「あー」

すとんと腑に落ちたのだろう、ちょっとわかるかもな、と呟いて笙悟は麺を啜った。やっぱりバカほどでかいピッチャーの水は減らない。もし帰りに手をつなぎたいって俺からお願いしたら、君は喜んでくれるのかな。





2017/12/26 13:02 (0)


▽シュガーコート(主鍵)

R18主鍵





→→→→
2017/12/25 10:05 (0)


▽時計(主鍵)


つきあい始めて少し経った頃、先輩に時計を買ってもらった。彼が1年生の頃───つまり、まだここを本物の現実世界だと思い込んでいた間、放課後のバイトで貯めていたお金で。

「まあ一応、親からもお小遣いとかもらってたんだけど。それでも高校出てからの将来のためにもう少しずつ……とか、そんなこと考えてたんだ。当時は」
しかし、この楽園に住み続ける限り、思い描いていた「将来」なんてものが向こうからやって来るようなことは、決してあり得ないのだと彼は知った。3月に在校生から見送られた後、卒業生たちはまたすぐに新入生として吉志舞高校に迎え入れられることになる。この先に待つのは、永遠のループと学園生活。メビウスという世界の真実を先輩に知らしめたのは、他ならぬ僕だ。
「でも、“ここ”って“こんな”だってことに気がついてさ」
入口近くに立っている、この世界の異常の象徴である、黒いマネキンのようなもの(一応、店員と呼ぼうか)に一瞥をくれて、先輩は声を潜めながら苦笑した。
「なんだか馬鹿らしくなっちゃって、もう全部使っちゃおうかなーってさ。だからちょうどいいよ」
「……そうですか」
「まあそれは置いといて、ねえ、どれにする? そこの青いのどう?」
それはいたずらを企てる子どもの見せる無邪気な笑みにも、猛烈な自己否定を孕んだままおとなになってしまった少年の、乾ききった自嘲のようにも見えた。今日も僕の腕で時を刻み続ける時計を見る度、あの笑みをいつも思い出す。



2017/12/07 21:07 (0)


▽そんなことよりラーメン食べに行こうか(主鍵)


「こんなことばっかりしてていいんですかねぇ」
もちろん良くはないと思うよという言葉を慌ててキスで飲み込んだ。だらだらと起きて食べて寝てセックスなんかしてシャワーしてまた寝て起きてセックスなんかしちゃったりして過ごした連休最終日の午後9時、絵に描いたような自堕落がふたり六畳一間に横たわっていたのがなんだか可笑しかった。土曜日にゴミを出し忘れていたことに気がついたけど黙っていた。
「テレビ久しぶり」
何日かぶりに点けたテレビがニュースを垂れ流していたけど内容がなかなか頭に入ってこなかった。ただ僕らがここでせっせと淫らな行為というやつに耽って時間を消費しているだけの間にも世の中は常に動いているんだなあと思った。それだけ。
「先輩、明日の朝は何時に出ます?」
「いつも通り」
「疲れたし僕もうお弁当作れませんよ……」
「あ、いいよいいよ、コンビニで買う」
「……そうしてください」
鍵介は床にぐたぐだと転がったまま動かなくて、なんだかそのうち溶けてしまいそうだ。シャワーを浴びたばかりでしっとり濡れている髪を撫でる。同じシャンプーを使っているはずなのに、僕より鍵介のほうが良い匂いがするのはなんでだろう。

「……いいんです……かね、こんなことばっかり、してて」

その時くぅ、と僕のおなかが鳴った。ねえ、そんなことよりラーメン食べに行こうか。




2017/12/04 16:42 (0)


▽ハッピーハッピードラッグ(主鍵)


隣のクラスの女の子が実は×××って聞いたから僕の知ってる1年の×××の男子を紹介してあげた後に実はその男子の親友が×××だってことがわかってさ、まあ当然放っておけないから今度×××に連れてってあげて試しに×××に会わせてあげることになったんだけどそうしたらね……、……そう楽しげに語る部長の頬はほんのりと紅潮していて、人形じみた端正すぎる容貌を持つ彼に対して僕が唯一人間らしさを感じる時間でもあった。きっと部長のことを信頼したのであろう生徒たちが打ち明けた数々の秘密が、悩み事が、閉じられた部室の中で途切れることなく吐き出され続ける。僕はそれを黙って聞いている。止まらない暴露とソファの上で足を組み替えるゆったりとした動きが妙にアンバランスだった。

「あぁ、ああ、また言ってしまった、君の前ではどうも気が緩んでしまってダメだな」
「人のせいにしないでくださいよ」
「そうだね、うん、最低なのは俺だ、俺だけだ」
笑う部長の声には甘ったるい恍惚が入り交じっていて、「最低だ」という言葉に反して後悔や反省の色などどこにも見当たらなかった。僕をひとり呼び出して溜め込んだ秘密をぶちまける快感に酔う彼に、「なんで僕を選んだんですか」と問いかけたところで、きっと今日もまた「秘密だよ」とはぐらかされてしまうのだろうなと思った。歪んだ欲を抑えきれなくなって誰かに救いを乞うみんなも、まるで自慰みたいな人助けにのめり込む部長も、そして処理しきれなくなった感情の捌け口にされることで彼の「特別」になれると期待している僕も、みんなみんな病気で、みんなみんなおかしいんだ。





2017/12/01 08:41 (0)


▽さめないうちに、(鍵主)


「せっかく会いに来たのに、顔を見るなり死にたいだなんて言わないでくださいよ。なんとかメビウスから生きて帰ってこられたんだから。ねえ、茜音先輩」
「……」
「きっと、先輩がいなくなったら悲しむ人はいっぱいいます。少なくとも僕はそうです」
「俺は自分の意志でこんなにも死にたがってるっていうのに、その、俺が死んだら悲しむ連中とやらのために生きてやらないとならないの。俺は俺のために生きるし俺のために死ぬよ」
「……うーん、難しいこと言いますね」
「なんにも難しくない。わかってくれないお前がばかなんだよ。ばか、ばーか」
「そうですね、はい」
あなたのためになら僕はばかにでも何にでもなれるのでお願いですからどうか生きていてくださいと言われた。悔しくて寂しくて馬鹿馬鹿しくて悲しくて握り返した手が温かくて腹立たしくて無力で苦しくて、涙が出そうになった。それだけの話。




2017/11/30 14:35 (0)


▽生肉(主鍵)


鍵介がフォークを突き立てた肉のカタマリから、じゅわ、と音を立てて肉汁が溢れ出すのを、ぼんやり眺めていた。

「……俺もハンバーグにすればよかったかな」
「?」
リーズナブルな値段と豊富なメニューが評判の吉志舞高校の学食で不動の一番人気を誇っているのが、今まさに俺の隣で鍵介が食べているハンバーグ定食だ。ボリュームのあるサイズのハンバーグに野菜の付け合わせが彩りを添え、ライスは頼めば大盛りにできるしコンソメスープはおかわり自由。食べ盛りの高校生どもにはうってつけのメニュー。
「先輩のもおいしそうじゃないですか?」
「まあそうだけど、……」
今日はさっぱりしたものが良いと思い注文した白身魚のソテーもまずくはないのだが、すぐそばで熱々のハンバーグをぱくぱく頬張られるとなんだか羨ましくなってしまうのだ。鍵介は俺の目と自分の皿をしばらく交互に見遣ったあと、「仕方ないな」と息をついてハンバーグを切り分けてくれた。「はい、あーん」差し出されたフォークの先にぶら下がる一口サイズのそれをぱくりと頬張る。濃厚なデミグラスソースに負けないくらいしっかり塩コショウが利いていて、ほどよい弾力もあるけど何かひとつ味気ないこれは果たしていったい何の肉なのだろうと思いながら、しばらく口の中で転がして飲み下した。
「おいしかった。ありがと」
「お礼なら、僕じゃなくて食堂のおばさんに。きっと喜んでくれます」
「そのジョーク笑えないんだけど」
「くふふ、すみません」
食堂に入ってすぐのカウンターの中をせわしなく動き回るNPCたちにちらりと目を向け、俺は声を潜めた。鍵介はフォークの先でにんじんのグラッセを転がしている。
「先輩知ってますか、これって、最初から肉なんですよ」
「? どういうこと」
鍵介から唐突に耳打ちされ、俺は首を傾げた。
「この世界って、犬とか猫とか、もちろん牛とかブタもニワトリも魚も作り物でしょう。だから先輩には変な風に見えてるはずなのですが」
「うん」
「でもこの肉がちゃんと肉として映るのは、これが牛を捌いて出来たわけじゃなくて……最初から料理に使うためのお肉としてパック詰めされた姿のまま、ポン、とこの世界にいきなり現れてるからなんですよね。メビウスには、屠殺場がないんです」
「はぁ、なるほど……魚としての鮭を見たことない子どもが、切り身のまま海を泳いでると思ってた話とちょっと似てる気がする」
「いびつですよね」
そう呟いて、鍵介はスープを啜る。人の口に入るためだけに産まれ、増やされ、肥えさせられる動物など存在しないというのは、ある意味でやさしい世界と言えるのかもしれないが。
「そうだな」
皿の上の白身魚はすっかり冷めていた。ますます味気なくなってしまった命のない白いかたまりを口に含むと、爽やかなレモンソースだけが舌の上で馬鹿みたいに存在を主張していた。



2017/11/28 13:03 (0)


▽偽善(主鍵)


※情緒不安定
※嘔吐を促す描写(吐いてはいない)

が有るため追記にたたんでおきます。お好きな方だけどうぞ







→→→→
2017/11/27 07:19 (0)


▽アイラブユーが聞こえない!(鍵主)


告白をされて、1回いっしょに下校して3回デートをして、5回キスをすれば容易く明け渡されるであろう彼女たちのスカートの中の純潔とやらの価値を、誰か俺に教えてくれないか!靴箱を乱暴に閉めて昇降口から見える空を呪った。いっそ雨でも降ってくれればいくらか頭が冷えるのにという願いもむなしく宮比市の空は今日も青い。きっと明日も青い。そして明後日も明明後日も1週間先も1か月先も。いつかのSF映画で見た、ディストピアを覆うパネルの内側に投映された空よりはいくらか健康的な虚構の陽射しが、相も変わらず世界をあたたかく満たしていた。
「茜音先輩、遅かったですね」
「悪いね、ちょっと女の子フッてきた」
「なんです、その『変な宗教の人に絡まれた』くらいの軽さ」
「軽いんだよ、実際」
校門で待ち合わせていた鍵介は俺の物言いに軽く眉を顰める。だって仕方ないのだ。女の子に好きだと言われるなんていうのは、俺にとってそれほど些細で、鬱陶しくて、馬鹿馬鹿しいことなのだから。
「さあ、今日はどこ行く?」
「映画でもどうかなと思いまして。先輩が好きって言ってた映画の続編、今日からでしょう」
「お、いいね…………で、そのあとホテルは?」
戯れに指を絡めてみたら、鍵介の顔が少しだけ赤くなった。なんだか笑ってしまう。
「い……行きません。ごはん食べて解散です」
「なーんだ、つまんねーの」



2017/11/26 13:09 (0)


▽返事をください(主鍵)


「恋には逃げ場があるけど愛には逃げ場がない」
「……ん……なんです、いきなり」
「恋をする心だったら上から押し潰されてしまう前に逃げれば傷つかなくて済むけど、愛は心を閉じ込めてしまうんだ」
相変わらず重度のポエム病を患った彼の言い回しに辟易しつつも、頭の中でこいとあい、それぞれの漢字を思い浮かべてみた。そういうことかなあ、となんとなく理解したつもりになった。
「ハア、つまりどういう?」
「君のそれは愛なの恋なの、どっち」
「難しいことを聞きますね」
キスの合間に撫でられた右の胸からはぞわぞわと悪寒が広がる。どろりと濁った皮膚から杭が飛び出し花が綻ぶあの瞬間とは比べものにならないおぞましさだった。

「それは、どっちのほうが先輩にとって都合がいいんです?」

今日も彼は笑っている。




2017/11/26 10:11 (0)


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