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「伊月!!」


後ろで、誰かが呼ぶ声がする。知ってる。この声。
だけど振り返りたくないんだ。


「なあ伊月!!」

「俺に構うな…!」

「はあ?」


俺の真後ろに立たれているのが分かる。
だけど俺は歩みを止めない。すれ違う人が皆俺を見て驚いた顔をしている。
そんなことも御構い無しに俺に大声で話しかけてくる日向。何を思って俺の後をついてきたのか知らないけど、同情なんて言うんだったら一発ぶちかましてやる。


「待てよ!」

「離せ!頼むから今は1人にしてくれ!」


右腕を掴まれてしまった。そのおかげで一瞬止まってしまったが、今の俺は冷静に日向と話せるような精神状態でないのは確か。
何を言われるか分からない中で逆上してひどく彼を傷付けてしまうかもしれない。
…既にもうこの態度で傷付けているかもしれないのだけれど。

掴まれた右腕を思いっきり振り払って再び日向から離れるように走り出す。これでもう諦めてくれるだろうと思っていたのに


「何でそんなに俺から逃げるんだよ!」


走っている。日向の声が遠ざかるようには聞こえていない。そして日向も走っているのか声が荒い。

いつもは、いつもはいつもは俺なんかちっとも気にしてくれてないくせにー…!気にして欲しいときだけ放っておいて、今だけはって時についてくるだなんて。

人通りの多い駅を通り過ぎて裏通りの道に日向を巻くように入ってきた。


「…ざけんな。」

「〜〜〜〜っ!!あのなあ!!!」


うまく巻けたと思ったのに。油断したわけじゃないけど俺の右腕は再び日向の手の中に収まっている。
ここまで追いかけられてしまえば逃げることは不可能なのかもしれないと悟ってしまった俺は涙でぐちゃぐちゃになった顔を彼に向けた。
もう怒ってるんだか泣いているんだか自分でも分からない感情のまま言葉を続けようとした俺は一瞬の出来事に頭が真っ白になった。


「俺だって泣きてーよ。怒りてーよ。だけど…」


俺は何故か日向に抱きしめられている。身長が然程変わらない所為か肩にあごを乗せるカタチで。
真っ白になってしまった俺の頭がこれは一体どのような状況であるのか冷静に考えることはできなくて。

だけど、日向の温かい温もりとか、走っていた為に荒くなってる息遣いとか、小さくだけど感じる鼓動の早さだとか…
抱きしめられて身体が密着している故に感じ取ってしまう沢山のこと。
これだけのことで止まらなかった涙がピタリとやんだ。


「悔しいけど、お前には幸せになってほしいしよ…」

「日向…?」

「言わないでおこう、態度に出さないでおこうって思ってたのに…」


俺には幸せになってほしい…?
先ほどよりは頭が正常さを取り戻しているようであるが震えているような自信のなさそうな弱々しい声で言っている内容の意味がイマイチよく分からない。
言わない?態度に出さない…?
次に発せられる言葉を何も言わずに待っているとギュ、と抱きしめられるチカラが一段と強くなった。

ー不本意な流れではあるが、好きな人に力一杯抱きしめられるってこんなに幸せだったんだな。これがもし両思いだったんだとしたらもっと幸せなのかもしれない。


「お前が俺から離れちまうと思ったら追いかけてた…」


それを言った日向の体温が今まで以上に跳ね上がるほどに上がったのが分かった。
抱きしめている手が震えている。

だけど意味がわからない。俺のことなんてちっとも気にも留めてさえくれなかった日向が。なんで今になって追いかけてきたりしたんだよ。
そんな俺に期待させるようなこと言うからまだ振り切れないでいるんじゃないか…っ、
もうヤメル。辛いもん全部捨てるって決めたのに


「なんで今更そんなこと言うんだよ。」

「今更ってー…」

「お前のことわかんねえよ!何がしたいんだよ!何を望んでるんだよ!!」


ドンッ、と日向の胸を強く押して離れた。
もうわかんない。何も知らない。そんな気持ちが溢れてきて俺を動かす。止まらないこの感情をどこにぶつけるべきなのだろうか?

そんなことさえもわからない俺のその感情はすべて目の前にいる日向に向けられてしまった。


「知らない!俺にはわかんない!何をどうすればいいのか!でもどうしたってお前の気持ちは変わんない…っ」

「知らないなら教えてやるよ。俺が何を思ってるのか。」


すると近づいて来て俺の唇に唇を重ねた。
ほんの一瞬。本当に触れるだけの…キス。
そして日向は表情ひとつ変えずに言った。


「変わんねえよ。お前に向いたこの気持ちはな」



\リ ョ ウ オ モ イはカ タ オ モ イを終える素敵な言葉。/
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これでまた誠凛バスケ部カップルが増えたんだとか。
日向先輩も色々と悩んでいたよーですね?







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