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「…で、黄瀬さんも眠ってしまったんですね」

「人ん家のベッドでグースカ寝てるよ。まあ、アイツもずっと働きっぱなしだしな」

「休日も平日も関係ないって前に言ってましたもんね。それに、時間もバラバラだから生活リズムも悪いって」


寝ている黄瀬を俺は起こさず洗い物をしている良がいる台所に行き良の隣で皿を拭く。家事は基本嫌いだが良の隣で何かをすることに今まで苦痛を感じたことはない。洗濯物してても、掃除してても、料理してても、何してても良がいれば辛いだなんて思わないのに良がいないだけでこうも変わるものなのか、と思うほどに辛くて辛くて仕方が無い。


「黄瀬さん明日はお仕事大丈夫なんでしょうか」

「いや、わかんねえ。なんで?」

「お疲れのところ遠い黄瀬さんの家に帰すのと抵抗があるので明日がお休みならこのまま泊まってもらえればと…」

「あとで聞いとくか」

「そうですね」


皿洗いも終わると俺と良のなんでもない時間になる。ソファに二人して座る。と同時に時計を見ると時刻は二時を少し過ぎた頃。腹もいっぱいでだんだん俺も眠たくなってきた。


「大輝さん眠いですか」

「ん、ん…ねみぃ。ごめんちょっと寝かせて」

「ふふ、どうぞ」


大輝さんは僕の膝に頭を乗せてすぐに寝息を立て始めた。僕はそんな大輝さんの綺麗な青色に染まった髪を撫でながら夕飯のメニューを何にしようか考えていると僕もだんだんと眠くなってきて、瞼が重たくなる。でもここで寝たら黄瀬さんや子供たちを誰が起こすんだと思いながらも睡魔には勝てそうもなく、膝の上で寝ている大輝さんと同じくして僕も眠ってしまった。


「…ま、ままあ?まま…ま、ままあああああああああ!!!」

「んっ、!?光輝くんどーしたのー…?」

「きせちがーうううう、まあまあああああああ」


次に僕が起きたのは光輝くんの泣き声でした。寝室から聞こえてきた光輝くんの大きな泣き声にどうやら黄瀬さんも起きてしまったようで二人の声が聞こえる。僕の膝の上で眠っていた大輝さんも起きて目を擦りながらどうしたんだ、と問いかけてきた。光輝くんが起きたみたいです、と言うと重たそうな身体を起こして一緒に寝室へ向かう。


「光輝くーん?」

「ままあああ!!!」

「うるせえよ光輝。…悪ィな黄瀬、起こしちまって」

「大丈夫っスよ、光輝っちどうしたんスかー?」

「き、せ…」

「光輝くんパパといてねー、咲ちゃんは黄瀬さんといてね、今からママおやつの用意してくるから」


次に光輝の泣き声を聞いてか次に咲が起きた。そして泣き止まない光輝のことを心配して光輝の元に寄ろうとする黄瀬の袖をまだ寝起きで目が半分以下しか開いていない咲が掴んで離さない。
抱き上げて光輝のことをあやしていた良は時計を見るなりおやつの用意する為に泣き止んだ光輝を俺に託して台所に消えた。


「ぱぱ…」

「ん?どうした光輝」

「ぱぱおやつー?」

「ああ、今ママ用意するってよ。そういや黄瀬、明日仕事は?」

「明日仕事ないっスよ!」

「ならうち泊まるか?黄瀬ん家こっから遠いだろ」


でも今日は帰る、と言い出したので俺は止めなかった。仕事が忙しい黄瀬でもプライベートとして一人になりたい時間もあるだろうと思ったから。咲と光輝はそんな俺たちの会話を聞いてかえらないで、と半べそかきながら訴えていたが黄瀬が折れることは無かった。


「本当に良いんですか?」

「大丈夫っスよ、また今度来るときは事前に伝えるっス」

「子供たちも黄瀬さんが来るの楽しみにしてるのでいつでも来てください。」

「じゃあ、俺黄瀬送るわ」


おやつを食べ終わって少し経つと黄瀬は帰る支度をはじめた。初めは良も遠慮しないでください、などと言っていたが黄瀬がそんなことで帰ろうとしていないことが分かると素直にガキ共と玄関まで送りにきた。ガキ共も悲しそうだがバイバイと手を振る。


「またね!光輝くんに咲ちゃん!」

「大輝さんも気を付けて帰ってきてくださいね」


バタン、というドアの重たい音がしてまだ名残惜しそうな子供たちの背中を押してリビングに戻る。まだ三歳にも満たない小さな子なのに泣いたりしないのは成長した証拠なのかと思ったりする。


「また黄瀬さん来るそうですよ。それまで良い子にしてられますか?」

「「できう!」」


素直に大きく良いお返事ができることが二人のいいところですね、そう言って頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細めて笑いながらテレビを見ている。

たまにこうして大輝さんの中学のバスケ部のチームメイトであるキセキの世代の皆さんがうちに遊びにきてくれる。中でも一番やはり懐いているのは黄瀬さん。そして何故か咲は少し怖がって懐こうとしないけど光輝は慕っているのかなんなのか赤司さんが来ると赤司さんにベッタリ。黒子さんに至っては元大輝さんの相棒とだけあってか二人とも大好き。てつ、てつ。と呼んで引っ付いて回る。紫原さんはお菓子やらオモチャやらを好きなだけ買ってくれるともう子供ながらに覚えたのかそれなりに懐いている。そして緑間さんは光輝は苦手そうにしているものの咲は緑間さんに興味津々で来るなりメガネをいじったりテーピングのしてある指をかじったりなど普段人にすることのないいたずらばかりをして困らせている。


「まーま、きせ!」

「あ、本当ですね。黄瀬さんこのCMにも出ていたんですね」

「おいしそう…」

「黄瀬さん演技上手ですね。光輝くんもこのジュース飲みたくなっちゃいましたね」


テレビに流れたCMを見て二人が大きく反応する。そのCMは最近、バスケが上手くキセキの世代という名前を持ちながらもイケメンでモデルという幅広い活動をしていることをメディアがよく取り上げるようになり人気があがった先ほどまでうちにいた黄瀬さんが美味しそうにジュースを飲み干す、というものだった。

咲ちゃんは余程嬉しいのか手をバタバタさせて喜んでいる。光輝くんは涎を垂らしながら黄瀬が飲んでいたジュースに釘付け。僕はそんな光輝の涎を拭いてから今度は夕飯の支度をすべく台所に向かった。


「…明日はどうする?」

「大輝さんもお疲れみたいですし、明日は存分に寝坊してまたお家でゆっくりしませんか?それに洗濯も掃除もしたいです」

「日曜の休日まで家事とは、良もすげえな。じゃあ明日はみんなで良の手伝いしたあとにひたすらゴロゴロすっか」

「いいですね。そうしましょう」


夕食も既にとり風呂にも入りガキ共も静かに寝静まった頃、俺たちもガキを挟んでベッドの上で明日のことについて話し合う。

…良も納得してくれたことだし、明日はみんなで平和に家にいよう。それが、いい。
存分に寝坊することをできる楽しみを考えながらおれも目をつぶることにした。


「おやすみ、良」

「おやすみなさい、大輝さん…」

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