褒美か罰か | ナノ


▽ これで良かったんだ。


「…という訳で。マネージャー志望の転校生を連れてきました」

「月麗華です、よろしくお願いします」



約束の放課後、ただ黒子の活動を終えるまで待つという条件だけだったはずなのだがいつの間にかマネージャー志望で部活を見学に来た。と言いくるめられてしまった。そして、それに反射的に反応してちゃっかり挨拶までしてしまう月同じクラスであるはずの火神も驚いていてたが、正直、今一番驚いているのは月自身である。

体育館に入るなりバスケ部全員の視線を集め、カントクである相田リコに舐めまわされるように見られ…



「運動神経はそこまで悪くないわね。体力は凡人以下だけど、マネージャーも意外と体力要るんだから付けて欲しいわね…でも一番大切なのはやる気よ。貴方も日本一取る気ないなら同好会へどうぞ」



何かに集中して本気で取り組めるほど熱い人間ではないことは月が誰よりも知っているのだが、そこまで言われると何故かスイッチが入ってしまい



「いいえ。マネージャーとしてできることを精一杯して絶対に日本一にしてみせますから。そんな生半可な気持ちで来てません」



堂々と言ってしまった月。黒子もおふざけのつもりで言ったのだろうがここまで月がのると思わなかったのだろう。他の部員と同じく呆気に取られていた。これほどの誠意を見て頼もしいと感じたのか日向や木吉に期待の眼差しを向けられて練習に入り、用意されたイスに座って見学することに…

ーで、今に至る。そして、月は猛烈に反省中。

なっ、なんであんなこと言っちゃったんだろう…!もうこの際引けないことくらい分かるけどあの誠凛にマネージャーとして入部するとかもうアカン…これじゃあ絶対他のキセキの世代とも会うことになるじゃん…これ本当にマズイんじゃないか、トリップしたいとは思ってたけど割と本気で願ってたけどやっぱりこっちの世界になんてくるべきじゃなかったんじゃないのかな!?え、そうだよね!?



「…アイツ、大丈夫かー…て、黒子も!?」



イスに座りながらも頭を抱えて何やらヤバそうな雰囲気を醸し出している月を心配そうに見つめる火神が隣にいる黒子に話しかけるが、その黒子もあろうことか顔色悪く頭を抑えながら何か唸っているのだ。



「どうしましょう…コレはちょっと…えっと…………」



どうしましょう。言い出しっぺは僕なはずなのに僕何かとんでもないことした気がします。マネージャーは勝手に僕がこの見学をしてもらう際に適当に取り繕った冗談だったはずなのに…カントクのあんな話に単純にのってしまうほど月さんて単純なんですか…!!!とりあえずこのままだと本気で入部になりそうなんですけど、でも今更冗談ですなんて言えませんしああ…!!!!すみません月さん、それに僕答え出さないといけないんですよねーーーー…!!!!





「…それにしても、やっぱり誠凛強いなあ、伊達にIHにWCで成績残してないね」



時間が経つにつれて、ハードになっていくものの誰一人と弱音を吐かずそれこそどの練習にも一生懸命に声を出して取り組む姿を見てさすが誠凛、創立二年目にして驚異の快進撃を続ける強豪校だけある。
感心して思わず漏らしてしまった独り言をリコが拾い、反応した。



「ウィンターカップはこれからだけど?」

「ぅえっ、あー…間違えました。」

「でもWCでも目指すのは勿論一位だけよ。負けるのはIHで十分よ」

「…行けるんじゃないですかね、一位」

「行ける、じゃないのよ。行くのよ!」



もう変なこと口に出さないって決めてたのに…とまたしても反省する月だったが何とかはぐらかせた。月の会話でスイッチが入ったのか指導する声に張りが出て、熱が入る。

カントクもまだ私と同じ女子高生なはずなのに凄いなあ…それに勉強もできて生徒会役員て…もしかして、高尾以上にHSKなんじゃないの?

リコの真剣な横顔をまじまじと見つめたあと、視線をまたプレイヤーへ戻す。まだまだベンチな降旗だって福田に河原も一生懸命。汗が額を濡らそうがTシャツが汗だくになろうがなりふりかまわず練習に食らいつく。日向の怒号だって飛ぶし木吉のキツイようでよても優しいフォローも見える。

ーそして、



「うぉおおおらっ!!」



火神大我のダンクを真近で自分の目で本物を見ることができた。



「火神クンすご…っ!」

「なんてったってうちのエースよ!じゃあここで10分休憩ー」



ピー!とホイッスルの音が体育館に鳴り響く。水を飲みにジャグを使用する者にタオルで汗を拭く者。そして、相変わらず黒子はー…



「黒子っちー、死んでるのー?」

「勝手に…殺さないでください…」

「ほんっと体力ないよねー。ねー、ツンツーン、」

「もう、やめてくださいっ…」



コートの端で死んだように倒れていた黒子の元に寄って頬をツンツンと突つく。嫌々とその手を払いのけようとするが黒子の肌の弾力が気に入り黒子が立ち上がるまで続けた。



「何あの天使の戯れ」

「天使が増えた…」

「こっちまで癒されんな」





「…お疲れ、黒子っち」

「お疲れ様です。…少し待っていて下さい、着替えて来ます」



練習後、部室に着替えに行った黒子の背中を見送って体育館で待つことに。そもそも、こっからが問題なのだ。一体黒子はどんな答えを出したのであろうか…



「んーっ…!本当にすごかったなー、まさかあの誠凛を見られるなんて。WC始まってないってことは…霧崎戦もこれからか!それに、桐皇戦も!」



背伸びをしながらこれから起きるWCのアクションを生で見られるのかと思うとワクワクする。

…いや、そもそも元の次元に戻らないと危ないな。こっちにいたらどうなるか分からないし。それに私がこっちにいて物語変わったりしないよね?ね!?



「あ、そうだ月さん、だったわよね?」

「はい」

「ちょっと話があるんだけどーー」







「ーーそれでいいの?」

「はい。その方がいいと思ったので」

「分かった。」

「でもその代わり、条件の二つめはお手伝いしますよ。僕以上にみんなしつこいと思いますからね」



秘密はこれ以上聞かないと答えを出した黒子。知らない方が良い事実もあるから、と言って微笑んだ。

まあ、私もあんまり言いたくなかったんだよね。やっぱこれから起こる話の内容が変わってしまうのは怖い。WCの試合で勝つ話が負けたりなんてしたらもうどうしようもない。だから、これでよかったんだと思う。



「黒子っち、これから頑張ろうね」

「未来から来た女の子と、ですか」

「ちょっ、それ他の人に言ったりしないでね?」

「分かってますよ、大丈夫です」



僕は、未来から来た女の子と未来を歩いて行きます。皆さん、月さんに会えましたよ。きっと皆さんの元にもすぐ行きます。…ーきっと。




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