僕の映らない鏡がほしい







声を枯らして泣いた夜は、特にそう思う。
腫らした目も悲劇ぶる顔も見たくなどない。
割りたくなるけれど明日の出勤に支障をきたすためにそれはできないし、そもそも鏡などこれ一つではない。

鏡が嫌い。
それを聞いた他人は大概が眉をひそめる。
だから、言わない。

時々叫びたくなることも、言わない。

鏡の向こう側の僕も鏡は嫌いだろうに、閉じ込められてかわいそうだ。
御愁傷様である。

でも、本当はこちらが鏡なんじゃないかと、子供じみた考えをしてみる。
アリスの鏡の中は逆さまが普通だったじゃないか。
どうしてそれが違うと言い切れる?

なんて、下らないことを考えているうちに深夜。
壁にかけた鏡を見ると、この角度では僕は映らないらしい。
鏡の中の僕はどうしているだろう。
映らないことにほっとしているだろうか。

それじゃあ、「僕」と同じじゃないか。






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