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 七夕祭り



ふと目についたそれは、



「うわあ……なにそれ」
「笹。」
「と、短冊ね。見たらわかるよ、なに蘭くんこういうの好きなの?」

机の上に投げ出したコンビニの袋から中身を取り出して臨也が目をきらめかせる。

「お前が好きだろ」
「え?」
「こういうの」
「………」

臨也が自分に対してよくする何言ってんのこいつみたいな顔に今日は期待が含まれてるような気がした。

「好き、だけどさ…」
「んだよ、どうせ俺とお前だけなんだからちっこい笹で問題ねぇだろうが」
「…………」

ぺたんと床に座って七夕セットを眺める姿は本当にガキみたいだ

コンビニのガキの鬱陶しい視線にキレずに買ってきてよかった、なんて恐ろしいほど自分らしくないことを考えて出されたオレンジジュースを口にする。

しばらく眺めているとぱっと立ち上がって俺の隣にぽすんと腰を下ろす。

「蘭くんは本当に彼氏のようなことをする」
「………」
「俺を喜ばしても、なにもいいことないよ」

こてんと肩に頭を乗せて、そんな可愛いことを言っておいてよくそんなことを言えたもんだな

こんなことを別に媚びるでもなく自然にやってきやがるから厄介なんだ。再三再四言ってるから他のやつにはだいぶ控えるようになってきたみてぇだが、こうしてるときどれだけ油断と隙だらけかまだ分かってないらしい。

「んなこと言わねーで俺のことも喜ばしてくれよ」
「最近俺君がどうやったら喜んでくれるのかよく分からなくなってきたんだよね。あ、お鍋作ってあげようか」
「それお前が喜ぶことだろ。まぁいいけど」
「え、いいの?」
「代わりに誰も呼ぶなよ。二人きりが条件だからな」
「……うん…」

無表情のときは対応に困ってるときだと知ってる。
コンビニの袋の中身を見たときから臨也はほとんどずっと無表情だ。

こんなしょうもないことにここまで戸惑うほど今まで誰もコイツを構ってこなかったのかと思うと余計に可愛く見えてしまう自分は心底気味が悪い。

だが気分は悪くない

肩に腕を回して引き寄せると大人しく体重を預けてくる。

「分かってんじゃねぇか」
「え?」
「俺が喜ぶこと。」

ちゅ、とこめかみに口付けると無表情のまま目元に朱が差す。ぜんぜんわかんない、と真顔で言いながら甘えるようにもたれ掛かってくる。

そろそろいいかとも、もういいかとも思う。

欲がないとは言わないがこの関係だって、悪いもんじゃない。

「鍋の材料買いに行こうぜ」
「え、いっしょに?」
「おう」
「あんまり蘭くんと外歩きたくないんだよなぁ…」
「友達に対してそれはねぇんじゃねぇか」
「…うーん」

悩んだような素振りをしてるが、答えは目に見えてる。それをどう撤回させるかが問題だ。くるりと思考を廻らせる。

「やっぱり俺ひとりで行くから蘭くんうちでゲームでもしてなよ」
「却下。用意して来い」
「ええ、ドタチンに見られでもしたらどうすんのさ。俺また悪いことしてるって疑われちゃう」
「買い物行くだけでそうそう会わねぇよ。つうか実際してんだろ悪いこと」
「まぁそうなんだけどさぁ……なんで行きたいの?欲しいものあるならリクエスト聞くよ?」

人を丸め込もうとするときの無駄に綺麗な笑顔は別に嫌いじゃないが丸め込まれてやる義理はない。どうやって切り返せば満足か、分かってることに誰に対してでもない優越感を感じる自分がいる。

「お前と買い物してーんだよ。」
「……………」
「オラ、行くぞ。財布取ってこい」

ぐい、といきなり腕を引っ張ったのにうまいことバランスをとって立ち上が臨也を抱き留めるとぱっと目を逸らされた。

「蘭くんってほんと」
「これ以上ごちゃごちゃ言うつもりなら七夕やってやんねーぞ」
「…蘭くんはやりたくないのかよ」
「わかんねぇ奴だな、やりたいからごちゃごちゃ言うなっつってんだよ。」
「………お財布とってきます」
「おー」

最初から素直に頷いたらいいのにとは思わない。ぐずるとこも可愛い。

どうせ道順でも思案しているんだろう、眉を寄せた顔はそれでもなんとなく嬉しそうだ。

「お待たせ。ねぇ、ついでだから池袋いかない?駅におっきい笹あるらしいよ」
「……池袋…て、さすがにやべぇだろ」
「会ったら困るひとはみんなで仲良く七夕パーティーみたい。だからいいよ」
「また省かれたんだな」
「ひどい話だよねぇ?でもそのお陰で安心して蘭くんとデートできるから今回は許してあげる」
「…………」

ふわりと笑う表情には強がっている様子はなくて単純に喜んでいるように見受けられる。

友達はデートなんかしねぇよと茶化せば笑うのか怒るのか。

(ご機嫌みたいで何よりだ)


お友達ごっこも、お前が笑うなら悪くない。






「おい」
「ん?」
「ん。」
「うん…?」

上機嫌にガードレールの上を歩いてるとすっと手を差し出された。手をとれってことなんだろうか

「大丈夫だよ、転けたりしないから」
「引き摺り降ろそうとしたんだよ。いくつだテメェは」
「21才だよー」
「21でもアウトだろ」

そう言いながら馬鹿じゃねぇのみたいな目で見守ってくれる蘭くんはなかなか俺に甘い。

なんでも友達はそういうもんらしい。俺にはよくわからないけど、蘭くんが言うならきっとそうなんだろう。

蘭くんの「友達だから」は甘ったるくてまるで恋人の関係性みたいだ。最初は新羅との付き合いとあまりに違ってたから、蘭くんにからかわれてるんだと思ったけど、からかうにしては蘭くんの言動は一貫していて迷いがない。こうしてることが当然みたいに俺を甘やかしてくる。

ふと帝人くんと紀田くんのことを思い出して腑に落ちた。彼らはなんかこんな感じな気がする。

総合してやっぱり新羅と俺の友達としての関係が少しおかしいらしいという結論に至った。

「友達、ねぇ」
「あん?」
「ううん、なんでもない」

断ったのに差し出されたままの手をとるとぐいと引っ張られる。しかたなく地面に降りると手の繋ぎ方が変わる。

「蘭くん手、おっきいね」
「まぁな」

これはいわゆる恋人繋ぎというやつではないのだろうか、なんて思って自分より少し背の高い蘭くんを見上げるとサングラス越しに目があった。細められた目にどきんとしてしまい慌てて目を逸らす。どうして蘭くんはこう…

妙に恥ずかしくて手は繋いだまま一歩の距離を取る。


(蘭くん、嬉しそう)


付き合いだしたぎこちない恋人みたい、

なんて、このときはぜんぜん気付かなかった。



end


2012/7/7



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