ろく
しあわせなんて脆くも儚く崩れ去るのが世の常というもので
そんなことよくよくわかっていたんだけど
「る、る、るびー」
「びーる」
「る!?津軽がいじわるする…」
「え!?意地悪じゃねぇよ、じゃあ、えと、びる……も、るだから…び、び」
和む……
こんな光景見てたら世界はいつまでも平和で幸せな気がしてくる
大人しくソファーに座ってしりとりを興じるふたりになんていうかほっとする
サイケかわいいなぁ
津軽島くん優しい
もし俺とシズちゃんが
(……………)
一回も続かないな
俺がしりとりしようって言った瞬間ソファーがとんできて脳内で戦争が勃発した
シズちゃんは本当に昔っから俺がせっかく友好的にしようと努力してるのにさぁ
コトコト心地いい音を立てる鍋をかき混ぜてぼんやり思う
たとえば俺がごはんつくってあげるって言ったとして、たとえば俺が一人でテレビをみるのがさみしいと言ったとして、シズちゃんがキレる以外の選択肢が見付からない
キレ方にはある程度レパートリーがあるかもしれないけど、………まあシズちゃんは俺が存在してるってだけで既に堪忍袋の尾が切れっぱなしなんだから仕方ないか
「うん、おいしい」
我ながら文句のつけようがない味噌汁だ。さすが俺
サイケと津軽が気に入ってくれるといいな
この前買い揃えたふたり用のお椀を手に自分を知る人間が聞いたら卒倒するような恐ろしいことを考える
彩りも鮮やかな和食に満足して未だしりとりを続けるふたりを呼ぼうとした
とき
ぴん、ぽーん
夕飯時に無遠慮なチャイムが鳴り響いた
「あっお客さんだぁ!」
「誰だろ、今日は仕事の予定ないっつってたよな」
「波江さんかなぁ!臨也くんお客さんだよぉ!」
「んー、すぐ行く」
ぴんぽーん
「ごはん用意できたから運んどいて」
「はーい」
「わかった」
こん
「はいはい」
こんこん
「あーもうちょっと待ってって」
どんだけ気が短いんだよ、まるでどっかの化けも……
ガァアン!!
「あ」
「なんで居留守なんざしてやがんだぁ?いざやくんよぉ」
なんていうか
「君が何かあったら何もかも俺のせいにするように、これからは俺も何かあったら疑うことなく君だと確信することにするよ」
ああ?と堅気とは思えない柄の悪さでグシャリとドアを踏み潰すシズちゃんに深いため息をつく。堅気どころか人間ですらなかったねそういえば。
「今出ようとしてただろ君は待つこともできないのかい?さすが化け物だね」
「なん「臨也!」
「臨也くんっ…!」
「「!?」」
「大丈夫!?おっきい音したよ!臨也くんへいき!?」
「臨也、どうした」
あ
やばい
顔、戻れ
「どうもしないよ」
「でもおっきい音…………あっ!!!!」
「そいつがシズちゃん……か」
「っいざやくんに何のよ……え!?」
「…?サイケ?」
「っ、っつ、つがる……っ」
「シズちゃんドア壊したぁぁああああ!!!!!」
「へ?」
「なんだと!?」
「臨也くんが壊されちゃう、臨也くん逃げて!!!!」
「っ非常口から逃げろ臨也!!サイケも一緒に逃げろ!」
「任せたよ津軽!臨也くんいこ」
「!」
ばっと俺とシズちゃんの間に割って入った津軽とすかさず手を取ってくれたサイケにきゅん、とか…ときめくしかないだろこれは…
サイケも津軽も本当なんでこんなイイコなの、大好き、今すぐこれ以上ないくらい撫でてぎゅってしたい
でも
ごめんね
「……サイケ、津軽」
ごんっ
「「いっ…!」」
「落ち着け」
俺にはこれまで培ってきた臨也くんじゃない折原臨也がいるんだよね……
「っだってシズちゃんがぁ!」
「……だって?」
「あっ!………ごめんなさい」
「悪かった、臨也が壊されると思ってつい」
「うん、ふたりとも俺のために怒ってくれたんだよね」
「「………」」
「うれしかったよ、ありがと」
「「っ……!!」」
ぶつけた頭を撫でながら言うと、ふたりが無言でこくこく頷く。
(さて、と)
問題のシズちゃんはぽかんと間抜け面しっぱなしだ
まあそうなるよね
客観的に現状を捉えて後ろから抱きしめてくれる津軽に甘えてふうと息をつく
(何をどこから話そうか……)
俺に抱きつきながらシズちゃんを威嚇するサイケが可愛すぎて現実逃避したくなってきた
end
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