短編 | ナノ


これの続き


何かが足りない気がしていた。そう。『何か』
でもそれが何かはわからないの。だから私は毎日『何か』を探している。

今日は天気がいいから外に出た。そういえば前も誰かと外に行ったことがある気がする。
でも誰と…?
きっとこれが足りない『何か』の正体なんだと思った。
自然に足が動く方へ向かって行けば何か見つかるはず。
歩いている途中に見える景色は、たくさん花が咲いている場所や、空がよく見える丘だったりと、どれも綺麗な場所だったのに、私の心は何故か締め付けられたかのようにきゅうきゅうして痛かった。

そして私の足は自然と写真屋さんのところで止まった。

「すみません、こんにちは」
「こんにちは。あれは出来上がっていますよ。どうぞ」
そう言って渡されたものは布がかかっていた。
なんだか見てはいけない気がしたけど、あまりにも渡してきたおじさんがにこにこ笑うから、見なくちゃいけないような雰囲気になって布を優しくどけた。

「う……そ」

そこには男の人と私が並んでいた。男の人は優しく微笑んでいるのに、私は泣きそうな顔で笑っていた。
見たことのない人のはずなのに何故か見たことがあるような気がした。

「お嬢さん、大丈夫かい?」

気づけば私の頬は濡れていた。
大丈夫です、と言おうと思うのに、1度溢れた涙は止まらず、とめどなく流れてきた。
どうして泣いているのか、私にもわからない。

「ごめんなさい!忘れていてごめんなさい!」

この人は私の足りない『何か』の正体なんだと直感的に思った。
名前も、この人と何をしたかも思い出せない。
それでもこの人は私の横に存在していたんだと思う。


羅刹が灰になってしまったら、周りから忘れ去られてしまう設定



by.にやり