短編 | ナノ


◎捏造設定につき注意


僕と千鶴は写真屋の前に来ていた。きっかけは千鶴の一言だった。

「写真を撮ってもらいに行きませんか」

僕は写真というものを見たことはあったけれど、撮ってもらったことはなかったし、千鶴ももちろんなかった。そんな僕らがいきなり写真屋に行った。

「き、緊張しますね」
「うん。そうだね」

ーパシャ

もっと色々考えていたのに案外すぐに終わった。
千鶴も同じことを思っていたらしく、きょとんとしていた。

「しばらくたったらまた来てください」
「…あ、はい」

写真屋を出たあと何故かまだ家に帰りたくなかったから、僕達の好きな丘に行くことにした。
今日はうっとりするような綺麗な空だった。
けれど僕の咳はいつも通り酷かった。

「千鶴。写真…どうだった?」
「…思っていたのと少し違いました。意外と早く終わるんですね」

その言葉を聞きながら、近くにあった花をぷち、ととった。きっとこの花は根から離されてしまったから枯れてしまうのだろう。枯れてぼろぼろになり、風に流されて後には何も残らない。きっとそんなものだ。

「…ねえ千鶴。なんでいきなり『写真を撮ってもらいに行こう』なんて言ったの?」

まさかそんな事を聞かれると思っていなかったのか、千鶴の息を飲む音と凄く驚いた顔が見えた。そして、その驚いた顔がみるみるうちに歪んで、涙が垂れてきた。

「…どうして……。なんで総司さんなんですか?私は忘れたくないんです。忘れません。…でもどうなるかわからなくて、もしあなたのことを忘れてしまう自分がいるなんて考えたら、とても悲しくて…」

ああ、やっぱり思った通りだ。あまりにも自分の思った通りすぎて笑いが込み上げてきそうだった。
さすがに笑わないけど。

「大丈夫だよ。きっと千鶴は覚えてるよ。ずっと」

そう言って子供をあやすように頭を撫でてあげた。そうすると千鶴は泣き止むってことを知ってるから。

…でもね。でも。




by.にやり