※学パロ ほんのり肌色注意。二人とも積極的です。 「はっぴーばーすでー」 そう間の抜けた調子で告げる片割れの頭には、何故か深緑色のリボンが結ばれていた。 「………………うん?」 そう首を傾げたハオに、葉は尚も続ける。 「だから。誕生日。プレゼント」 そう告げる片割れに、ハオは尚更首を傾げた。 時刻は、0時5分。確かに、本日5月12日はハオと葉の誕生日だ。それは間違いない。 今年は誕生日が平日だった故に、友人達とは一昨日の10日に誕生日会という名目のどんちゃん騒ぎを実施している。当日は仕事でいない両親にも口々に祝われ、幼なじみのアンナからもぶっきらぼうながら下校中の別れ際に誕生日プレゼントを投げ渡され(そう、そのものずばり投げ渡され)た。何だかんだ祝ってくれる癖に、何故か彼女はいつも当日には絶対にプレゼントを渡してこない。そんなところも彼女らしいといえばらしかった。 11日の夕飯には、ケーキはもちろん、二人の好物ばかりが並んだ。名残惜しみながら多忙な両親が仕事に出掛け、意図せず二人きりで迎えた時間。 そう、今日は正しく二人の誕生日だ。 しかし。しかし、である。 「………………誕生日プレゼント?」 「おお」 「………………何が?」 「オイラが」 そう普段の飄々とした顔で告げる自分そっくりの顔を、ハオはとっくりと見つめた。 今葉の髪は後頭部で一つに括られ、緑色の光沢のあるリボンが黒髪を飾っている。 つまり片割れの言葉通り、葉自身がハオへのプレゼントとそういうことなのだろう。 そこまでとっくりと考えたところで、混乱していたハオの冷静な思考が漸く現実に追いついた。 「は?」 が、すぐまた何処かに失踪した。 そんなハオの混乱を何となく察知したのか、葉がのんびりとした口調で顛末を語る。 「いや、正直金がなくてな」 そう切り出した葉に、ハオは混乱しながらも思考を巡らせる。 確かに、先月BOBのデビュー何周年か記念のCDが出るとかで、葉は浮かれに浮かれていた。豪華仕様のそれが中学生一月分の小遣いで購入できる訳もなく、両親に3ヶ月分小遣いを前借りし、家の手伝いをして小銭を稼いでいたのは記憶に新しい。それでも足りずにハオも千円程葉に貸している。そんな弟が金銭的に余裕がないのは確かだろう。 「でも、お前誕生日毎年くれるだろ」 そう言う葉の視線の先には、ハオの持った平たい箱があった。確かに、用意してある。 「だから、金かけずにどうにか出来んかなーと思ったんだけどよ。料理も材料いるだろ」 確かに、ケーキなどの菓子類の材料は案外値が張る。ただでさえ金欠の葉がそんなものに手がでる訳もない。 「でもよ、父ちゃんと母ちゃんに言うのもなんか違うじゃねえか」 そう薄く渋面をつくる片割れに、ハオも小さく頷いた。 葉は葉で、真剣にどうするか考えたらしい。 「そんで、まん太達に聞いたらよ。リゼルグが『これでいいんじゃない?』ってこれやってくれて」 そこまで聞いたところで、ハオの中ですべてが繋がった。 葉が自分でこんなことを思い付く訳がないと思っていたが、リゼルグの差し金だったか。 葉の頭に結ばれた深緑色のリボンの影に、リゼルグの人を食った様な笑みの幻覚が見える。 「だから、オイラがプレゼントだ」 好きにしていいぞ。 そう爆弾を投下してくる葉に、ハオはくらりと目眩を感じる。リゼルグの予想通りになるのは非常に癪だが、据え膳食わぬはなんとやら。ハオの中の天秤はあっさりと「素直にプレゼントを受け取る」方に傾いた。 「本当に、好きにしていいの?」 「……おお」 伺う様に柔らかく頬を撫でれば、亜麻色の瞳が擽ったそうに笑う。細められた目尻に小さく口づけると、笑い混じりの吐息が葉の唇から零れた。無抵抗の許諾。拒む気など欠片もない指先。向けられた眼差しから滲むのは、途方もないほど深い信頼だった。 「ひどいこと、しちゃうかもよ?」 「ひどいこと?」 額を合わせて小さく呟けば、真っ直ぐにハオを見つめた葉が僅かに首を傾げて見せる。 心底不思議そうな亜麻色の瞳はかけらも自分のことを疑っていなくて、ハオは淡く苦笑した。心から信頼されるのは嬉しいものの、その無防備さは些か扱いに困る。 何故なら、葉が思っているほど自分にも余裕がないからだ。 「ようがいやがっても、やめないかもよ?」 「ん………そう、なん、か?」 軽く頬に口づけながら囁いても、葉は不思議そうに首を傾げるだけだ。 ああ、そういう蕩けた目で無防備に見つめるのはやめて欲しい。 「そうだよ。泣かせちゃうかも」 「ハオは……ッ、ん……そんなこと、せん、ぁ、だろ」 軽く耳朶を舌先でなぞれば、甘く吐息を漏らして見せる。ふるりと甘く震える身体が愛しい。 そう、出来ればしたくない。泣かせる様なことも、嫌われる様なことも、なにもかも。少しでも多く、彼の、葉の心を占める存在でいたい。 「よう、よう」 「ぁ、はお……ちょ、ま、て、って……」 布団に押し倒して甘く体重を掛ければ、亜麻色の瞳が淡く潤む。甘い制止を無視して顎裏に口付ければ、葉の喉がひくりと震えた。柔い抵抗に小さく苦笑する。 その程度の力では、止まれそうにない。 「先に謝っておくよ、ごめんね?」 物騒な言葉とは裏腹に、囁く声音は、自分でもうんざりするほど甘かった。 大好き過ぎてごめんね 「葉、起きてる?」 「…………んー」 間の抜けた気のない返事に、ハオは淡く苦笑する。 肌を重ねた後の葉は、いつもこうだ。普段から決して俊敏とは言いがたいが、行為の後は尚更動きが緩慢で、ゆっくりとしたものになる。すぐに思い付く例外と言えば、剣道の試合の時くらいだろう。 しかし、そのてろてろとしたのんきで怠惰な空気を纏う彼のことが、嫌いではない。寧ろ、ぐちゃぐちゃに甘やかしたくなる。 「ココア淹れたよ。飲むかい」 「………………ぎゅうにゅうは?」 「多目」 「………………ぬくいやつ?」 「熱すぎず冷たすぎずにしてみたけど」 「………………のむ」 気だるそうながらも中々俊敏に起き上がった葉に、ハオはもう一度淡く笑った。そう、葉が機敏に動くもうひとつの例外が、ハオがココアを淹れた時だ。 「そこに浴衣出してあるよ」と小さく声を掛けて、畳んである寝巻き代わりの浴衣を指差す。葉は「んー」と気の抜けた返事をして、のろのろとそれに腕を通した。ハオにとってもゆとりのあるそれは、片割れと殆ど変わらない体格の葉にとっても丈が余る。 ぶかぶかの浴衣一枚だけを適当に素肌に引っ掻けて、起き上がった片割れはあくび混じりにのろのろと台所へ足を運んだ。そんな葉の背をハオも追う。 台所には、湯気の上がる珈琲と、ほんのり温かいココアが首を長くして二人の到着を待っているのだ。 「んー」 相変わらず気の抜けた声を上げながら、テーブルに腰かけた葉がのんびりとココアを啜る。その頬は緩み、とろんとした目元が幸せそうだ。 「はおは、ほんとなんでもできるよなー。ココアきらいなくせに、淹れるのはうまい」 「まぁ、ぼくだから」 「あはは、なんだ。それ」 指の付け根まで垂れてくる長い袖を軽く捌き、葉が楽しげに笑う。ふにゃふにゃとしたその顔を見ていると、ハオの方までなんだかふやけた気分になってきた。 「むしろそのココア、他人からしたらあんまり美味しくないとおもうよ。ぬるいし」 「そーか?うまいぞ」 へんてこな好みをした、お前の為だけに淹れてるからね。 喉まで出掛かった甘ったるい台詞は、苦い珈琲と共に飲み込む。いくら今日が特別な日とは言え、余り開けっ広げに胸の内を言葉にするのは好きではない。 「でも、久々にこんな時間まで寝てたなぁ」 何気ない言葉に、珈琲を飲むハオの手がピタリと止まる。 葉が寝ている間に、学校へと休む旨を連絡したのはハオだ。訊ねてはこないが、葉もそれは察しているだろう。 今日は、ずっと二人きりだ。 「………夜、寝たのが遅かったしね」 「寧ろ、寝たの朝だったしなぁ」 からからと笑いながら、あっさりと言葉の端々に昨夜の行為を匂わせる。無自覚にこういうことをするのが、この片割れの罪作りな所だ。 じりじりと炙られる様な熱をもて余しながら、ハオはただ静かに口元を緩める。 少し泣かせてしまうかもしれない。 勿論、その言葉の常とは別の意味で。 そう思いながら、昨晩ハオが目の前の身体を散々貪ったばかりだというのに。驚くほど無防備な弟だ。 ふにゃふにゃとした顔でココアを啜るその影に、甘く瞳を潤ませて、艶かしく身体を震わせる昨夜の彼がちらちらと重なる。 案の定――――否、自身で思っていたよりも、昨晩は酷く泣かせてしまった。勿論、酷く甘い意味ではあったけれど。 逃げる身体を押さえつけて、腕の中に閉じ込めて。限界を訴える涙混じりの甘く濡れた声音など、起爆剤にしかならなかった。 一度意識してしまうと、だぼついた浴衣から覗く、葉の肌に散った赤い花びらが酷く目につく。 「はお?」 そう、その痕をつけたのも、こんな風に甘く名前を呼ばれたときだった。 「………ん?なぁに」 どうにもいけない。 未だにほの暗い夜の気分を引き摺っているのか、思考の感覚が昨夜から止まったままだ。 「いや、ぼんやりしてるからめずらしいなって」 そう笑う葉に、ハオも甘く微笑む。 どうせ、この片割れにはなにもかもばれているのだ。 なにも考えていない様で、その実、彼は酷く他人を良く見ている。ハオとて例外ではない。きっと、もう気づかれているのだ。 胸の内に燻る熱も、なにもかも。 「―――――もっと、貰ってもいい?」 そう少しだけ切り込めば、ほんのりと羞恥を頬に乗せて、葉が唇を開いた。 「………………もっと?」 「うん」 「………………あんなにやったのに?」 「ダメ?」 そう訊ねながら抱き寄せると、素直に体重を掛けてくる。丸い頭を抱き寄せて耳朶に口づければ、小さく身体を震わせた。 「………………おまえ、本当体力あるよなぁ。オイラ結構疲れたぞ」 「だから、先に謝っただろう。ひどいことするかもしれないし、泣いてもやめないかもしれないって」 「いや、別にいやではないんだがな」 うーん、と抱き締められながら唸る葉にハオは淡く目を見開いた。 葉は相変わらず抵抗するでもなく、ハオの腕にやんわりと抱かれている。 預けられた身体から伝わるのは、迷いのない信頼だ。ハオが、自分を傷つけることなど考えもしない指先。背中へと回されたそれに、ハオは小さく微笑む。 「どうしよう」 「うん?」 「いままでで、一番嬉しいかもしれない」 「うえ?」 ぎゅっと抱き締めれば、「そ、そんなにえっちしたかったんか……」と何やらとんちんかんな応えが聞こえてくる。否定するよりも先になんだかおかしくて、その癖酷く幸せで、ハオは、結局ただ笑ってしまった。 「じゃあ、休憩しながら。ね?いいだろう」 「うー………ほどほどで、たのむ」 そう照れ臭そうに頷く葉が愛しくて、ハオはまた、いとしさが溢れるように笑った。 ホワイトデーのお返しも兼ねてプレゼントとして用意した、ホテルのスイーツカフェのチケットを使うのは、また今度になりそうだ。 === ハオさま葉くんはっぴーばーすでー! 熱40度近くでてふらふらなので誤字脱字あっても見逃してください後日直します。当日祝わずにはいれなかった。 しかしよりにもよって若干いかがわしい奴ですほんとすみません!とにかくおめでとー! 2015.05.12 top |