※独白sss
短めです。


最近、気に入っている遊びがある。

そうは言っても、それは一般的なものとは少しばかり外れた位置にある遊びだった。
僅かばかり不埒で、けれど奇妙に純粋な、とにかくハオにとってはそこそこに楽しい遊びだった。何故『そこそこに楽しい』程度かと言うと、恐らく遊びを仕掛けた相手からの反応が無いからだろう。しかし、それはこの遊びの醍醐味でもあった。もしも気づかれてしまったら、この遊びは成立しない。
だからこそ、ハオは今日も息を潜めて細心の注意を払いながら、そっと窓に手を掛けた。足をかけた窓の縁が、カタンと硬い音を立てる。ピンと張り詰めた空気。外気の冷たさと室内の温かさが混ざり合う中を縫うように摺り抜けながら、ハオは音もなく薄暗い部屋の中に滑り込んだ。そこからは、ハオの他にもう一つ規則正しい呼吸が聞こえる。葉だ。ハオは耳だけでその気配を探りながら、眠る片割れにゆっくりと近づいていく。感覚を頼りに手を伸ばすと、指先に軽くて乾いた布団の感触がした。手探りでその縁を探り当て、そろそろと持ち上げる。その途端、葉が小さく呻いた。布団を持ったハオの手が、ぴくりと震える。硬直と沈黙。けれど葉は目覚めることなく、もごもごと唇を動かしながら小さく寝返りを打っただけだった。相変わらず、すよすよと気持ち良さそうに眠っている。
ハオはそれに小さく安堵しながら、半面酷く落胆してもいた。
葉が眠ったままなことにそこはかとなく残念な気持ちになるのはこの遊びの常で、しかしそれすらもハオは密かに楽しんでいた。自分自身でもその感情は良く解らない。
今日も"それ"と胸の端で戯れながら、ハオはするりと葉の布団の中に潜り込んだ。ひんやりとしたハオの体温に、一瞬葉の瞼がぴくりと震える。けれど、目覚めはしない。それに奇妙に安堵しながらも、肌ごしに感じる葉のほの淡い体温と唇から漏れる吐息が、そっとハオの内側を波立たせていく。ハオが隣へと潜り込んだことに気づきもせずに、葉は相変わらず眠ったままだ。
けれど、それでいい。
ハオはそう思いながら、そっと瞳を閉じた。
葉に気づかれないようにこっそりと布団に潜り込み、葉が目覚める前にそっと出ていく。それが、ハオが最近気に入っている遊びだった。
夜這いのつもりはないので、別段いやらしい悪戯をしかける訳でもない。ただ、ハオは葉の隣で淡い眠りに着くだけだった。元々眠りは深くないので負担にはならない。逆に、葉の気配を感じているときの方が良く眠れる気がする。寝過ごして葉にバレかけたことも何度かあった。
今夜もとろりとした安堵に包まれながら、ハオの瞼はゆるゆると降りていく。
視界が遮断されると、尚更葉の気配が濃くなった。

「…おやすみ」

ハオの言葉に、応えはない。
それは遊びの成功を決定付けると共に、奇妙にハオの胸の内側を引っ張ってみせた。



ノスタルジックは月へ帰る



意識が浮上し始めたとき、身体に違和感があった。
夜の帳がその密度を薄め、朝の気配が強まっているのを肌で感じる。もうすぐ夜明けだ。そう直感的に思った。
けれどそれとは別の感覚が、ハオの五感を刺激する。
なんとなく息苦しい。そして、奇妙に温かい。
ハオが訝しがりながら瞼を持ち上げれば、葉がぴっとりと自分に張り付いていた。正確には、抱き枕よろしく四肢を使って抱き着かれていた。

「え」

予想外の事態に、ハオは目を見開く。
ハオ自身、自分の眠りが浅い事は自覚している。けれど、肩や腰が妙にこっていることから、ハオはこの態勢になってある程度の時間が経過している事を悟った。
眠りの浅い自分が、こんな事態になっても気づかなかった事が不思議で堪らない。
部屋の時計を確認すると、5時少し前だった。いつもハオが葉の布団から退散する時間である。
けれど、これでは動きようがない。

「えーっと…」

困ったハオは、とりあえず葉の腕から抜け出そうとしてみた。
しかし、動く度に抱きしめてくる力は強くなる。抵抗したことで尚更動けなくなったハオは、途方に暮れた。
これでは逃げようがない。

「……あーあ」

捕まっちゃった。
ぽつりと口にしたその瞬間が、ゲームオーバーの合図だった。
この遊びもそろそろ潮時らしい。恐らく数時間後には、ハオが葉の布団へと潜り込んでいたことがバレてしまうのだろう。
葉の腕が回された身体は、温かい。

「……つまんないの」

そう告げる声音は、不思議と嬉しげだった。
ハオは自分に抱き着いてくる葉を改めて抱きなおし、そっと瞳を閉じる。
どうせバレてしまうなら、これからはこの温かい塊を好きなだけ抱きしめて眠ろうと、そう思った。

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2012.05.29

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