※一応ラブラブなつもりですが、今回はいかがわしさありつつ多少暴力的な表現が有ります。
苦手な方はご注意下さい。


自分にも相手にも言える事だけれど、心底不器用だなと思う。

「……ッ」

水を飲んだ瞬間唇へと走った、皮膚が引き攣る様な痛み。
ハオはそれに小さく顔をしかめた。口の中に淡く鉄の味が広がる。どうやら、葉に殴られた時に切れていたらしい。
今更気づいたその事実に、ハオは苛立ちも露わに舌打ちした。数時間前まで散々葉を好き勝手にして発散した筈の憤りが、またじわじわと胸の内側に巣喰っていく。
そんな片割れはと言えば、未だにハオのベッドを占領したまま、深い眠りに落ちていた。葉の背中には、ハオの付けた噛み痕が複数残っている。怒りに任せて散々噛み付いてやったのだから当たり前だ。葉は痛がって抵抗したけれど、それでもハオは止めなかった。その結果が、唇の痛みでもある。葉を力ずくで屈服させようとしたハオに、葉も本気で抵抗してきた。それだけだった。認めている筈の事実にも関わらず、ハオはそれに尚更苛立ちを募らせる。飲む気も失せたペットボトルの水を、ハオはそのまま葉の顔にぶちまけた。

「………何すんだ、お前」
「おはよう。お前がいつまでも寝ているからだろう」

数瞬後。
のろのろとけだるげに瞼を持ち上げて睨んできた葉に、ハオはにっこりと満面の笑みを浮かべた。自分がポーカーフェイスとして浮かべるこの笑みを、目の前の片割れは心底嫌っている。
不可抗力だと言わんばかりのハオの態度とその笑みに、葉は案の定嫌そうに顔を顰めた。水の滴る前髪をうっとうしそうに掻き上げ、緩慢に身体を起こす。掛布がその肩からずるりと滑り落ちると、噛み痕と共に赤い痕も露になった。くっきりと葉の肌についたその歯形は、ハオの歯並びの良さもあって厭に綺麗に残っている。それが数時間前の自分をまざまざと見せ付けてくる様で、ハオは内心舌打ちをした。わざわざ自分から掘り返してしまったハオ自身の失態に、胸の内側が爛れていくのが解る。

「とっとと服着なよ。だらし無い」
「……おめーのせいで動きたくねーんだよ。ほっとけ」
「男の裸なんか見ても楽しくないんだよ」
「その楽しくねーのを見て毎回勝手に興奮して勝手に抱くのはどいつだよ」

ハオはぶっきらぼうに呟いた葉へと答える代わりに、小さく舌打ちした。
……まさに、その通りだった。
葉の存在を疎ましく思いながら、それでもハオは葉がアジトへと訪れる度に招き入れた。そして今回の様に、葉を抱いたりもする。その頻度は決して多くない。それでも、事実は事実だった。
けれど、葉も葉で矛盾している。
毎回ではないにせよ、ハオのアジトを訪れれば組み敷かれて抱かれる可能性は確かにあるのだ。それにも関わらず、持ち霊も媒介も持たないまま、手ぶらでハオの元を訪れる。かといって、ハオに抱かれる事を良しとしている訳ではないらしい。ハオが葉を抱こうとすれば、数時間前の様に全力で抵抗してくるのだ。
口端の傷が、じくりとした痛みと共にその存在を主張する。

「そんな僕に毎回組み敷かれて、あられもない声で喘いでいるのはお前だろう」
「……嫌だっつってんのに、お前が無理矢理出させてんだろ」
「違うね。お前が弱いから、本気で抵抗しても僕に敵わないだけだ」

ハオがそう切り返すと、今度は葉が舌打ちをした。せめてもの抵抗なのか、ハオに背を向けてベッドにぼすりと身体を沈める。
葉の剥き出しの肩には、噛み痕と一緒に朱色の痕が幾つも散っている。
それは、どちらもハオの本心だった。
その事実がまた、ハオの苛立ちに拍車をかけていく。憤りの裏側に隠れた感情が、鬱陶しくて堪らなかった。

「…なんだい、誘ってる訳?」

そのくせ、唇から零れたのはそんな台詞だった。
ねっとりと鼓膜に絡み付く様な、薄暗い淫靡さがその声音から滲んでいる。それに葉の肩がピクリと跳ねたのを、ハオは見逃さなかった。

「……どこをどう見りゃそうなるんだよ。オイラは疲れてんだ。寝る」
「今まで散々寝てた癖に、まだ寝る気なのか。第一、男の前でベッドに横になるのはそう取られても仕方がないだろう?」
「オイラも男だっつーの。男の裸なんぞ見たくねぇんだろ。だったら見ねぇでどっか行ってろよ」
「生憎、お前の嫌がる顔を見るのは飽きなくてね」
「……悪趣味野郎」
「褒め言葉をどうも」

答えるのと同時に、ハオは葉の顎を無理矢理掴んで噛み付く様なキスをする。力で容赦なく捩伏せようとするハオの乱暴な口づけに、葉は嫌そうに顔を顰た。苛立ち混じりに手入れの行き届いた長髪を掴み、無遠慮に引っ張る。そんな葉の手を縫い付ける様にベッドへと強引に押し付け、ハオはその口内を好き勝手に荒らし回った。

「……退け」
「冗談」

首筋へと軽く歯を立てたハオに、息を荒げた葉が苦虫を噛み潰した様な声で告げる。
それをあっさりと却下し、ハオは葉の肩口に唇を這わせた。肌の感触を確かめる様に軽く一舐めしてから、きつく吸い上げる。

「ぅ、痛ッ…!」

ビクンッと葉の身体が痛みに跳ねた。
その様を視界の端に捉えながら、ハオは歪んだ何かが満たされていくのを感じる。

この愚かしい行為で孕ませられるものなら、孕ませてやりたい。

葉の肌へと新たに咲いた、朱色の花弁を視界に捉えた瞬間。
ハオの抱えた混沌から、どろりとそんな言葉が滲んできた。
不意に顔を出した感情に、自分自身で目を見開く。次の瞬間、ハオは小さく歯噛みした。焼け爛れた胸の内をぶつける様に、葉の肌へと何度も噛みついていく。
我に返ったとき、片割れの肌に刻まれた自分の感情の片鱗を目にして、葉が尚更疎ましくなるのもわかっていた。
それでも、止まらなかった。
愛撫とも暴力とも言えない行為は、葉の唇から嬌声と苦悶の声を繰り返し上げさせる。振り上げられた拳が、ハオの頬を強く打った。血液が固まりかけていた傷口が再び開き、口内に鉄の味が広がる。
抵抗する葉を抑えつけ、ハオは残酷な程鮮やかに、殺意が滴る様な笑みを浮かべた。

「お前が心底疎ましいよ、葉」



背中の歯形と切れた唇



それでもこいつを手離せない。
まったく、愚かで馬鹿げた思考だ。

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根底はラブラブ、でも表面は殺伐としたこんな感じも案外好きです。

2012.02.24

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