※学パロ ギャグ風味。後半ちらっといかがわしかったり微妙にキャラ崩壊していたりするので、苦手な方はご注意下さい。 「おお、おはようなんよ」 極々平凡な、とある日の朝。 お玉を持った葉が振り返った瞬間、台所へ足を踏み入れようとしていたハオは、食器棚の角へと盛大に小指を打ち付けた。 「――――!」 悲鳴をあげるのはかろうじて回避したものの、ハオは小指をぶつけた衝撃でその場に蹲る。じんじんと響く痛みに視界が滲んだ。 けれどそれと同時に、頭の中は疑問符で埋め尽くされていく。 「…!?…!?」 ハオへと振り向いた葉が浮かべていたのは、いつもにはない程の満面の笑みだった。 そんな葉は確かに可愛い。それの可愛らしさは問答無用だ。誰になんと言われようと、ハオにとって葉はとにかく可愛かった。しかし、それは葉の顔立ちや所作が女性的という訳ではない。葉がふとした時に見せる、ハオへの好意を滲ませた仕種や態度が愛おしくて堪らないと言う、それだけの話だった。 しかし、いくらハオが葉を好ましく思っていても、流石に微笑みかけられたくらいでここまで動揺はしない。 葉に関してなら、他人の知らない部分を誰より多く知っている自信がハオにはある。それは兄弟としても、恋人としてもどちらもだ。そんなハオが、何故ここまで動揺したのか。 理由は非常に単純である。 「ハ、ハオ?だ、大丈夫か?」 今も心配そうにハオを覗き込む葉が、何故かピンクのフリフリエプロンを身につけていたからだった。 何故にピンク。何故にフリフリ。 ハオの頭の中では、疑問と疑念となんだか良く分からないときめきが、代わる代わる顔を覗かせて感情を引っ掻き回してした。 似合うか似合わないかで言えば、非常にギリギリのラインで前者だろう。成長途中の身体の線は、幾分まろい。けれど、それは確かに男の身体だ。節々は硬く、それなりに筋張っている。女性的な丸みや柔らかさは無いに等しい。葉は特別華奢な訳でもなく、それこそ標準的な男子の体型だった。 しかし如何せん、ハオにとってはそんなアンバランスな感じも非常に良かった。何がツボなのか自分でもさっぱり分からない。けれど、葉がそんな格好で自分へと振り返るというシチュエーションに、数分前のハオは驚きながらもうっかりキュンとしてしまったのである。 「ハオ?」 「え、あ、だ、いじょう、ぶ」 片割れの声で我に帰ったハオは、途切れ途切れにそう答えた。 しかし、葉は相変わらず変な顔でハオを見ている。 そんな片割れに、内心ハオは非常に焦っていた。「ヤバい、僕オッサン趣味なのかな。新婚とか言うシチュエーションに弱いのかも。なにそれこわい」と、ハオは悶々と思考を廻らせる。この後葉がエプロンを外すのがちょっと勿体ないと思ってしまったことが、その思考に尚更拍車をかけていた。 「いやースマンかったな」 そんなにびっくりすると思わなかったんよ。 そう、葉は困った様に笑った。 そんな片割れの話を要約すると、以下の様なものである。 事の発端は、先週にまで遡るらしい。二人の母である茎子と葉が衣更えの為に押し入れの整理をしていたところ、現在片割れが身につけているフリフリエプロンを発見したというのだ。茎子曰く、新婚当初に幹久から贈られたものらしい。 それを聞いた瞬間、「父さん…」という悲痛な声がハオの唇から零れたのを、誰も咎めることはできないだろう。やはり血は争えない様だ。しかし、この歳で自分の倍以上生きている父親と同じ趣味なのは如何なものか。 ハオはそう、悶々としながら話を聞いていた。 そして、何故葉がフリフリエプロンを身につけるに至ったかというと、去年のエイプリルフールに騙された仕返しらしい。 嘘を思い付かなかった代わりに、面白がってどっきりとして着用したそうだ。 「………なるほどね」 「いやぁ、でもまさかあんなにびっくりするとは思わんかったぞ」 「大成功だったな」と、葉はフリフリエプロン姿のまま、ケラケラと楽しそうに笑った。 そんな顔は非常に可愛い。が、やられっぱなしはやはり癪なのである。 「さてと、それじゃあ飯食うか」 そう言ってエプロンを脱ごうとした葉の手を、ハオはそっと止めた。 「?……ハオ?」 「ねぇ、よう。今日はエイプリルフールだね」 ハオはにっこりと笑みを浮かべながら、事実を確認する様に葉へと告げる。 その笑みに、葉の背筋へと嫌な予感がじわじわと這い上がってきた。 「お、おう」 「エイプリルフールで嘘をついて良いのは、午前中までなんだよ。午後は午前中についた嘘のネタばらしをするのがマナーなんだ」 「……へえ、そうなんか」 何故、今唐突にその話をするのか。 尚更加速していくあまり良くない予感に、葉はじりじりと後退していく。そんな葉の思考を解りきっているかの様に、ハオもじりじりと距離をつめてきた。 とん、と葉の背中がとうとう台所の壁に当たる。 両親は、いない。二人とももう仕事で出かけてしまった。今は、そう、目の前で食えない笑みを浮かべているハオと自分しか、この家にはいない。 警戒をあらわにする葉へと満面の笑みを浮かべたハオは、片割れの耳元へと唇を寄せた。 「フリフリエプロン凄く可愛かったよ。似合ってた」 「…それはあんま嬉しくねえぞ」 吐息が触れるような距離で囁かれたことで、葉の背筋を別の感覚が這い上がってくる。 しかし、これはいよいよ、本格的にマズイ。 葉がそう考えた瞬間、ハオは予想外の方向から爆弾を投下してきた。 「お陰で、僕なんだか新しい趣向に目覚めちゃいそう」 「……は?」 告げられた言葉の意味を理解しかねて、葉は間の抜けた声を上げる。そんな片割れに、ハオは一層笑みを深くした。 ……その背に悪魔の羽と尻尾が見えるのは、果たして気のせいなのか何なのか。 「ぼく、全然怒ってないよ。でもそれとは別に、こういう格好のようとするのも良いかなぁとか、思ったり思わなかったり」 「……え?」 「ご飯よりもようをおいしく食べたいなぁ、とか」 「…いや、ちょ、はお?」 「思ったり、思わなかったり?」 逃げようもない距離から更にじりじりとにじり寄ってくるハオに、葉もいよいよ雲行きが怪しくなってきたのを察した。 けれどハオは葉の動揺を無視して、満面の笑みを浮かべて見せる。 「…今の言葉のどれが嘘かは、午後になったら教えてあげるね?」 甘い声音で告げられながら、唇を塞がれた瞬間。 葉は、全てを理解したのである。 四月一日に愛を見た またやられた! === 結局返り討ちにされちゃう葉くんも可愛いと思います(笑) 2013.05.12 top |