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リ…ン…
[オ…]
リン…
[オイデ…]
リィン…!
[オイデ…!!]
「お祖父様、癒月です。」
「おぉ来たか。入りなさい。」
「失礼します。」
祖父・晴明から呼び出された癒月は物の怪を伴って晴明の部屋を訪れた。
姿は見えないが晴明以外に勾陣、玄武の気配が感じられるため隠行しているようだった。
「昌浩から聞いたか?」
「聞いたよ。
…聞こえたという声に覚えはあるかの?」
「…いいえ…。」
癒月はゆっくり頭を振ると続けた。
「何を言っているか分からないんです。
でも…あたしはその声に呼ばれていて…行きたくないのに行かなきゃいけない気がして…行ったら戻って来られない気もして…」
「鶴夜…」
ぎゅ、と物の怪を抱き締め癒月は口を閉ざした。
「ふむ…気になるのう。」
『月読御神、としても分からないんだな?』
勾陣の問いかけに癒月は頷いた。
「儂の方でも、ちと調べてみよう。」
「ありがとう、御座います…」
「…癒月や。」
晴明の呼びかけに癒月は沈んでいた顔を少し上げた。
「そんなに心配しなくとも大丈夫じゃよ」
「お祖父様…」
「お前は儂の大事な孫娘であり、友じゃからな。」
優しく笑った晴明に癒月は破顔し、泣くのを堪えて何度も頷いた。
「それで、お前も話があるんじゃろう?」
「…はい。
これは月読としての私の話です。」
癒月は顔つきを真剣なものに変えた。
「おいで、時。」
外の方へと呼び掛けると淡い光を纏った白い狼が庭に降り立った。
その姿に癒月と騰蛇以外の者が思わず息を呑む。
狼は一層強い光に包まれ人に近い姿となり、膝をついて頭を垂れた。
「お呼びですか?」
「お前を晴明様に紹介しようと思って。晴明様、月読に仕える"時矢"です」
「お初に御目に掛かります、時矢と申します。」
「ほぉ…まぁそんなに謙遜なさるな。儂は安倍晴明と申す者、これらが儂の神将達じゃ。」
「貴方様の事は姫に聞かされ存じております。貴方様は我が主の主、そして御祖父君であらせられます。何かあれば何なりとお申し付け下さい。」
「頼もしいのう。」
純粋に忠誠を示した時矢に晴明は面白そうに呟く。
「本来なら今回姫に付くのは四人なんですが…少々事情がありまして…」
「事情?」
疑問符を浮かべて晴明が癒月を見ると苦笑して時矢の言葉に捕捉した。
「私を探して散り散りになったみたいです。
式を飛ばしたのでもうすぐ来ると思うんですが……」
「ほっほっ、そういう事か。」
「すいません、おっちょこちょいな子達なので。」
「いやいや、構わんよ。」
「じゃあ時、」
「はい、何かあればお申し付けを。」
癒月の言葉を察し、時矢は一礼して姿を消した。
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