猫ごっこ 12


 

外で、雀のさえずりが聞こえる。
やはりあれから眠ってしまったのか、とぼんやりと目を覚ます。



まだ夢心地の中で、昨日の甘い夜を思い出す。

スザクと何度も愛を確かめ合った。

体に残る余韻と腰のだるさが、夢ではないと安心させてくれる。
思わず顔の筋肉が緩む。


しかし手探りでその温もりを求めるも、それがどこにも見つからなくて当惑する。
寝る前は、すぐ隣で抱き締めていてくれたのに…。


「スザク…っ!」

ばっ、と勢いよく顔を上げる。
さんざん嬌声を上げまくったせいか、声が枯れていて、喉もがらがらだった。


「る、るーしゅ…?」

俺がいきなり起き上がってびっくりしたのか、スザクが面を食らったような声を発する。
上半身だけ身を起こせば、すぐに探していた人物と目が合った。

スザクは布団のすぐ横の畳の上で、正座をしてじっとしていた。
昨夜最後に見た格好…、つまり俺と同じまだ裸のままで。
おそらく、起きてからずっとそのままそうしていたのだろう。


「なに…やってるんだ?お前…」

「えと…。ルルーシュの寝顔を、見てた」

状況が理解できなくて、ぽかんと開いた口が塞がらない。

スザクはというと、視線を泳がせてぽりぽりと指で頬をかいている。
なんだかこっちも恥ずかしくなって、何も言えなくなってしまう。



ふと部屋の時計に目をやると、すでに午前が終わろうとしていた。
今日は月曜なので、当然学校はある。

「まずい、授業…!お前、なんで起こさないんだ…っ」

「だって、気持ち良さそうに寝てたし…。もっとルルーシュ眺めていたかったし」

「な…!と、とりあえず着替えて学園に戻……んぐっ!?」

立ち上がろうと体を動かそうとすると、激痛が走った。

腰が、重い…。


「まだ動くのは無理だよ。昨日、あんなにしたし…」

「〜〜…っこの、体力ばか!!」

「なんだよ。ルルーシュだって加減しなくていいって言ったじゃないか」

「だ、だからって、あ…あんなに激しく…っ」

「夕べはあんなに素直だったくせに…。もっともっとって僕の下で喘いでさ」

「……なっ、」

「すごく可愛かったな」


た…確かに、そんなことも言ったような気がするが…。

反論しようと身を捩ると、後ろの穴から白い液がどろりとこぼれ出る。
スザクが中で出した精液が、尻から太腿へとつたい垂れていく。

「あ…そういえば中、まだかき出してなかったね」

あれからずっと寝ていたので、処理などしている時間がなかった。
肌も汗ばんでいて少し気持ち悪い。


「後で一緒にお風呂に入ろう。僕が運んであげるからさ。…昨日は、一緒に入れなかったしね」


君、猫だったから。
スザクがはにかみながらそう言った。





そうだ。
俺は昨日、猫だった。
C.C.の嫌がらせ、もといピザの恨みによって。


しかしなぜ突然、元の姿に戻れたのだろう?


…でも、今となってはそれはどうでもいいことだった。

元に戻れたなら、それでいい。







「ねぇルルーシュ。また時々でいいからルルになってくれない?」

「はぁ?できるわけないだろう。もう猫なんてこりごりだ」

「でも、猫になったおかげで僕たちは気持ちが通じ合えたんだよ?猫に感謝だよ?」

「…何が言いたいんだお前は」

「好きな人は、囲っておきたいってこと」

「……!」

「君が、本当に僕のペットだったら。いつでもこうして、独占できるのにな…」


俺も、好きな人をずっと独占したかった。
その瞳を自分だけに向かせていたくて。

でも…。


「…そんなことしなくたって、俺は、お前しか見ていない」


思わず口からすらりと出た言葉。

スザクがきょとんとした顔をしている。
俺は自身が言った言葉に急に照れくさくなって、がばりと布団を頭から被った。


「ねぇルルーシュ、もう一回言って!」

「う、うるさい!誰が言うか…っ」


昨日はあんなに自分の気持ちを素直に言えたのに、一晩一緒に過ごした後は目を合わせるのもなんだか気恥ずかしい。

どんな顔をしていいかわからなくなって、被せた布団をぎゅっと握りしめる。



「…………、食事…」

「へ?」

「お前、普段…自炊してないだろ?猫にはもうなれないけど…。俺が、たまに作りに来てやってもいい」

「本当に…?」

「え、栄養が心配なだけだ。お前、野菜全然食べてないみたいだったから…」

「あ…全部ルルに見られてたんだっけ。…ありがとう、ルルーシュ」

布団ごしにでもスザクが喜んでいるのがわかった。
俺もつられてクスッと笑う。


布団から顔だけ出して、スザクの顔を覗く。
先程と変わらず、未だにおとなしく正座をしているままだった。


「…お前、いつまでそうしているつもりなんだ?早くこっちに来いよ」

「え…そっちに行ってもいいの?」

「何言ってるんだ。そもそもここはお前の布団だろ」

俺が呆れ声でそう言うと、スザクは顔をニヤけたままそわそわと落ち着かない、変な様子だった。

そうか、スザクも俺と同じで妙な緊張をしているんだな…。


「服着てないから寒いんだ。早くしろ」

「う、うん…!」

布団をめくってやると、スザクがもぞもぞと入ってくる。

それでも隅っこの方にいるので、俺はスザクの方へとすり寄った。
ずっと布団の外にいたくせに、スザクは俺より体温が高くてあたたかかった。



「今日は、二人でサボリだな…」

「うん…。そうだね」



手を握れば、握り返してくれる。


もう猫のような愛嬌もないし、ふかふかの毛並みも肉球も尻尾もないけれど。

それでも、俺を好きだと言ってくれるスザクがいる。


スザクも、最初から俺を見ていてくれたんだ。

今思うと、猫なんかに嫉妬していた自分があほらしい。





「あ、やっぱり後でアーサーに会いに行こうかな」



前言撤回。


猫なんかに、負けてたまるか…!










それから、二人で同じ天井を見上げながら。


もう一度ゆっくり、眠りに就いた。




















*   *   *



ルルーシュのいなくなった部屋で、少女がひとりベッドの上に座っていた。

手には、ゼロの仮面。
片手でポーン、ポーンと真上に放ってはキャッチし、退屈そうに弄んでいた。



「そう心配するな。ちょっとした悪戯じゃないか。少し、からかってみただけさ」

黄緑色の髪をした少女が、ぼそりと呟いた。


部屋には誰もいない。
携帯電話を使用しているわけでもなかった。


「それに、どうやら私のおかげでうまくいったみたいだしな。ん?あぁ、そうだ。今は枢木スザクと一緒だ」


それでも少女は、まるで誰かと会話をするかのようにしゃべり続ける。
しんと静まり返ったその部屋に、彼女の透き通った声だけが響き渡った。


「ふふ、どうやって元の姿に戻ったのか知りたいか?」


少女がクスリと笑って、意地悪な表情を作る。



ずっと宙に投げていじくっていた仮面を、トスン、と両手で捕えた。










「昔から決まっているだろう?」





「魔法は、王子様のキスで解けるんだよ。マリアンヌ」















end.



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