冷たく凍えるような部屋に湿った音が響き渡る。
石壁に囲まれた部屋の真ん中で、椅子に座り、足を組んでそれはいた。
にやりと牙を剥き出しに紅い瞳を細めて笑う。
不死者の王。
吸血王。
アーカード。
アーカードの足元には裸体の女がひれ伏し、彼の革靴をちろちろと舐めている。
しかし、アーカードが楽しそうに笑う理由は、足元で淫らにひれ伏す女が楽しかったわけでは決してない。
そのアーカードと女の光景を遠くで直立し、じっと感情を圧し殺して眺める同属のドラキュリーナの姿があまりにも面白くて堪らなかったのだ。
アーカードは立ち上がる。
足元でひれ伏す女の頭が潰れる。
鮮血があたりに飛び散り、アーカードの頬を塗らした。
辺りには生臭い血の香りが漂う。

「またそんなことをして、インテグラ嬢に知られても私は、知らんぞ」

とドラキュリーナは苦虫を潰したような表情を浮かべた。
まるで同属であるはずのアーカードに嫌悪しているようでもあった。
アーカードはそのドラキュリーナの細く白い首を掴む。

「お前がこの女をこの部屋に引き込んだのに?」

アーカードの餌として女をインテグラル邸地下に引き込んだのはこのドラキュリーナだった。
連れてきた女がアーカードにいいように扱われ、最後は殺されるということが分かっていたはずなのに、このドラキュリーナは絵空事のようなことを言い出すものだから、アーカードは思わず口角をあげた。

「この女がこうやって無残にも殺されることが分かっているにも関わらず、ここに連れてきた。お前はまるで鬼のようなやつだな」

キッとドラキュリーナはアーカードを睨む。

「本当は吸血のおこぼれを貰おうという魂胆だったんじゃないのか?」

このドラキュリーナがここ数百年の間、吸血衝動を遠ざけているのを知っているアーカードは意地悪く、煽るように言う。
すると途端にドラキュリーナの首元から滴るように汗の雫を流し始めた。
やはりそうだ。
アーカードは確信する。
彼女は必死にアーカードが思うとおり、吸血衝動を我慢していた。
その滴る汗をアーカードは赤い舌で覆いかぶさるようにして舐める。
首元を押さえつつドラキュリーナの首元を舐めまわす様は、まるで吸血鬼に女が吸血されているように見えて情緒的でもあった。

「アスカ」

アーカードは吸血鬼の名前を呼ぶ。
呼びなれたその名は、アーカードにとって古く懐かしい名前だった。

「お前は吸血鬼だ」

ちろちろと首筋をアーカードに舐められながら女吸血鬼、アスカはアーカードに殺された女の死体をじっと眺めた。
赤い血が石畳の床に網目のように広がっていく。
その血液が滴ってアスカの足元まで流れてくる。
誘惑が忍び寄る様にそれは似ている。

「どう抗おうとしても、その衝動が、お前が吸血鬼だということを証明している」

まるで暗示にかけるようにアーカードは低く響く声で言った。
しかし、アスカはアーカードを下から睨み見上げる。
その視線はとても鋭く決意を秘めていた。
吸血衝動を断つという決意。
アーカードは赤い目を細くする。

「堪らない。お前はそうでなくてはならない。そうやって己を否定していなければならい」

それがアスカ、お前と言う女だ。
とアーカードは言うとアスカを押し倒し上に覆いかぶさった。
とても挑発的な眼差しをアスカはアーカードに向けた。
そんな視線を吸血王に向けられるのは彼の主以外にアスカの他は居なかった。
組み敷かれているにも関わらず、アスカは怯むことなく視線を向ける。

「いつかお前を喰ってやるよ、アーカード」

アスカはにいっと牙を剥き出しに笑った。







5万打達成記念小説
「吸血衝動」















長編夢ヒロインをイメージしつつ、リハビリを兼ねて作成。
サドとマゾは表裏一体、立場を二人で取り合いつつ、いちゃいちゃすればええんちゃう?とアーカード夢を書くたびに思います。
ま、うちのアーカード夢にはそんないちゃいちゃ皆無ですが(え)
約8年ぶりにアーカード夢を書きました。
長編ヒロインはかなり思い出深いヒロインです。
今はほとんど絶滅してしまっただろうHELLSING夢愛好家の皆様へ捧げます。

20171123
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