シャワーを浴びてすっきりしたのか、あかりは少しのあいだ元気そうにしてたけど、結局、日付が変わる頃にはベッドにつっぷしてダウンしていた。これは幾ら揺さぶっても起きないパターン。長く一緒にいるにつれ分かってきた、そこら辺の機微。だから言わんこっちゃない、と誰にともなく突っ込む。聞かせたい相手は夢の中だ。
苦しそうな体勢で眠っているあかりを持ち上げてベッドに寝かせる。全然起きる気配がない。……全く、何が0時になるまで絶対起きてる、だ。こんなに疲れてる癖して。
眠りこけてる迂闊者の計画だと0時になった瞬間おめでとうと言って、すぐさま用意しておいたバースデーケーキにロウソクを灯してお祝いしたかったらしい。手作りケーキは気になるけど、でも、半分眠りかけな相手から祝ってもらっても、うれしさ半減だ。どうせ明日は一日一緒にいられるんだから別に急がなくてもいい。
電気を消してベッドにもぐり込もうとしたら、けたたましい電子音が鳴った。あかりの手元で携帯が鳴っている。電話かと思ったけど、液晶画面には“アラーム”と表示されてた。目覚まし? 今頃? あかりがガバッと半身を起こす。胸元を軽く掴まれた。
「瑛くん、誕生日おめでとう」
言い終えると、またベッドに倒れて目を閉じた。知らなかったな、こいつ、こんな目覚まし時計みたいな機能があるのか。そんな訳はない。
相変わらずけたたましく鳴り続けている携帯を取り上げてアラームを止める。液晶に表示された時刻は丁度0:00。有言実行。ちゃんと出来た訳だ。……全く。
「…………ありがとう」
また夢の世界に行ってしまった相手に向かってお礼を言う。伝わっているかどうかは分からない。でも構わない。明日の朝、また伝えればいい。
それでも、本当は今すぐ起こして伝えた方が良いのかもしれない。あかりのしたいようにさせた方がいいのかもしれない。離れるのがつらいと言っていたあかりの顔が頭をよぎる。いつも弱音を吐かなかったあかりが、初めてあんなことを言った。胸の奥が痛む。
何か柔らかくて温かいものが胸元にもぐり込んできた。あかりだ。寝ぼけて抱きついてきた。……随分、穏やかな顔をして眠っている。そんなに夢の中が楽しいのだろうか。
「……う〜〜〜ん…………ケーキ……入刀……」
そうして洩らした寝言はこんな風だ。思わず噴き出さずにいられない。――どんな夢を見てるんだ、おまえは。……きっと、夢の中でケーキを切り分けてくれているのかもしれない。今日のために作ったというケーキを。
「……明日、な」
笑わせられたせいか、いつの間にか胸の中が軽くなっていた。抱きつくあかりの背中に腕を回して、そっと抱きこんだ。また同じ台詞を、今度は声に出さないで唱えた。――ありがとう。そばに、いてくれて。
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