フリリク企画 | ナノ
桜の季節 -4-


「今日ね、三人でお花見に来られてよかった……」

ふと呟いていた。

「……もしかしたら、今年で最後かもしれない、から」

この三人で、まだ柔道部のメンバーでいられるうちに、こうやって桜を見られるのは、もしかしたら今年が最後かもしれないから。

「まあな」と嵐くんが頷いた。分かっていたことではあったけど、肯定されて少し寂しくなってしまった。

「でも、来年も見に来ればいいだろ」
「え?」
「来年も桜は咲くだろ」

こともなげに嵐くんは言った。

「で、でも、来年はみんなバラバラになっちゃうかもしれないよ?」
「違う場所にいたって、またこうやって時間を作れば良い」

満開の桜の木を仰ぎながら嵐くんが少し笑って言う。

「大体、新名のヤツ辺りがうるせーだろーし」

それからわたしの方を見て言った。

「また、こうやって集まれば良い。だろ?」

目の前に嵐くんの真っ直ぐな目がある。何もかも見透かされそうな真っ直ぐな目。その向こうに、桜の木と晴れた青空が広がっていた。

――また来年も集まれば良い。

そう言ってくれた。

「……うん、来年もお花見しようね」
「ああ」

視線を戻した嵐くんに習うように、わたしも目線を自分の膝頭に移した。スカートに桜の花びらが積もっていた。一枚、指先に取る。……あの日も、桜が満開だった。今日と同じく。

「……わたし、桜が好きだなあ」
「ああ、綺麗だな」
「うん。それもだけど……」
「?」

桜を見ると、あの日のことを思い出すから。
嵐くんから初めて声をかけられた日。嵐くんに、初めて出会った日のことを。
桜の花は、わたしにとって、とても大切で幸せな記憶を呼び起こしてくれる花だ。

中途半端に言葉を切ったわたしを嵐くんが不思議そうに見つめる。
考えていたことと、じっと見詰められたせいで、急に恥かしくなってきて、慌てて誤魔化した。

「……何でもない!」
「どうした? 何か、顔赤ーぞ」
「な、何でもないってば!」
「たっだいまー! 宴会部長ただいま戻りましたー」
「新名くん! ベストタイミング……!」
「お、新名。ちょうどよかった」
「えっ、何これオレ大歓迎?」

人数分のはばたきミックスジュースを抱えたまま、思わぬ歓迎を受けて戸惑っている新名くんに嵐くんが言った。

「来年も花見するぞ」
「えっ? 花見?」
「うん。三人でお花見しよう?」
「えー……、ええーっと、それは、いいんすけど……」
「じゃあ、決まりな」
「うん、決まりだね」

良かった、来年もお花見が出来るみたい。
喜ぶわたしとは正反対に新名くんは複雑そうな顔をしてる。指先でおいでおいでをするみたいにしてわたしを呼ぶ。

「ちょい、先輩。こっち」
「ん、なぁに?」
「だから作戦会議。ちょっとこっち来て」
「?」

嵐くんから見えない(聞こえない)位置に呼ばれて耳打ちされた。

「つーか、いいの? 来年まで三人で花見とかさぁ……」
「いいの」
「だって……」
「それが、いいの」

呆気に取られている次期主将に向けて言った。

「また、このメンバーで集まりたいんだよ。“柔道部”の皆で」
「…………ヤベェ」
「?」
「何か、涙腺に来たかも。今の」
「新名くん……」
「……来年も、オレ、立派に柔道部引き継いでいきますから」
「うん、応援してるからね」

わたしたちの世代は卒業しちゃうけど、応援してるし、暇を見て、部活の様子を見に来れたら、と思う。

「何だ、新名。花粉症か?」
「違ーし! つか泣いてねーし!」
「そうか?」
「そうです、男は簡単には泣かないんです」
「ああ、その通りだ。偉いぞ新名」
「うん、偉いね、新名くん」
「子供扱いしないで下さいよ。つか、先輩まで……!」

ああもうヤダヤダ、と新名くんは嘆いているけど、顔が半分笑っている。嵐くんも、笑っている。最初、このお花見に誘った動機みたいな、寂しいような悲しいような雰囲気は、ここにはもうなかった。それは柔道部のみんなが、嵐くんが、来年の約束をしてくれたからだと思う。満開の桜を振り仰いで、改めて、思った。――わたし、桜の花がとても好きだ。大好きな人に、あなたに、出会えた日のことを思い出させてくれるから。舞い散る淡い色の花びらの中、大好きな人たちと過ごす時間の大切さを噛みしめた。





桜 の 季 節
リクエストして下さったぽんさんに捧げます。
→あとがき


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