フリリク企画 | ナノ
さんかくのかたち-3-


「お待たせー」
「おかえり。遅かったね」
「レジが結構混んでたんだよ。あと、これ。新商品見つけたの」
「冷麺キャラメル……」
「学食、どれだけ冷麺押しなんだよ……」
「あ、そうだ、海野さん」
「どんな味なのかなあ……ん、何?」
「たまたまチケットが手に入ったんだけど、来週遊園地に行かない?」
「たまたま?」
「そう、たまたま」
「そうなんだ…………えっと…………」
「わ、わー、奇遇だなあ!」


佐伯くんが急に声を上げた。笑顔だけど、ぎこちない。海野さんが佐伯くんの顔を見上げて、ぱちぱち、と瞬きを繰り返す。


「僕もこのあいだバイト先で、お客さんからチケットをもらったんだ。その、遊園地の!」
「……佐伯くんも行くの?」
「いいかな、赤城くん?」
「……海野さんがいいなら、いいよ。どうする?」
「うーん……あ、そうだ。氷上くんも行かない?」
「僕かい?」


例によってゴムみたいに噛み切れないバーガーに苦戦していた氷上くんは、急に話を振られて驚いて顔を上げた。


「ちょっと待ってくれ……予定は……うん、空いている。構わないよ」
「ホント? 赤城くん、佐伯くん、いい?」
「うん、君がそれで構わないなら」
「…………まあ、チケットも余ってる、し」


――赤城と二人きりはよっぽどマシだ。そんなことを小声でぼそぼそ言っている佐伯くんに、僕も小声で話しかける。


「……つまり、君は買う訳だね」
「ああ、当然だろ! 買うよ。言っとくけど、負けないからな」


やけくその体で言い切る佐伯くんに笑顔を向ける。


「負けられないだろうね。チケットは」
「……は?」
「遊園地のチケット。君、どうせ、自分で買うんだろ?」
「……チケットの話かよ」
「あれぇ、何の話だと思ったの?」
「………………」


佐伯くんは絶句している。まずは一本、かな。でも先のことは分からない。なぜなら、勝敗を握っているのは他でもない彼女であって、僕らではないのだから。

一体どちらの手を取るのか。決めるのは、彼女だ。僕の、彼の、あるいは、全然知らない誰かかもしれない。誰の手ももしかしたら、取らないかもしれない。けれど、未来への可能性は彼女の手の中にあって、僕らは、彼女の手を取りたくて、こうして見えないところで戦いを始めた。ようやく、という話。


売店の期待の新商品、冷麺キャラメルを口に入れて、いかにも「辛〜い!」という表情をしている彼女を、苦虫を噛み潰したような顔で見つめていた佐伯くんが、苦り切った顔で口を開く。


「言っとくけど、な」
「何?」
「アイツは手ごわいぞ」
「親友の忠告か、肝に銘じとくよ」
「……鈍いし、鈍臭いし、天然ボンヤリだし、のほほんカピバラだし、とにかく、手ごわいからな?」
「わあ、実感こもってるね。忠告ありがとう」


でも、彼女の手ごわさなら僕も知っている。偶然に次ぐ偶然、近づきそうで、でも、手を握ることも望めなかった。そもそも、名前すら知らなかったんだ。大抵の場合、一言多い僕に彼女が憤慨するパターンだったし。


「……でも、好きなんだろ?」
「……渡さないからな」
「こっちの台詞だなあ」
「ねえ、さっきから何の話してるの?」


冷麺キャラメルを、売店で買ったペットボトルのお茶で流し込んで、ようやく人心地ついたらしい彼女は、きょとんとした顔で、僕と佐伯くんを見上げて首を傾げる。僕と佐伯くんは、横目に見つめ合う、というか、目配せをする。そうして、佐伯くんは首筋をさすり、ため息をつき、僕は肩をすくめ、ため息をつく。


「おまえはまだ知らなくていい」
「うん、君にはまだ早い話、かな」


――そう、まだ、という話。


奇妙に意見が一致する僕らを交互に見つめ、彼女は「変なの」と肩をすくめる。まあね、確かに変な話だ。変な、偶然の重なった、三角関係の形だと、思う。








さんかくのかたち
夜凪モエさんへ捧げます。
→あとがき

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