フリリク企画 | ナノ
桜の季節 -3-


★☆☆


皆で持ち寄ったお弁当を食べ終わって、大きなポットに詰めたお茶を皆で分け合って飲んでいたら、新名くんが立ちあがりがてら、言った。ふと思いついた、という風に。

「オレ、飲み物買ってこよっかなー」
「えっ?」

でも、お茶があるのに。わたしの疑問を見越したように新名くんは体半分だけ振り返って言う。

「お茶もいいんだけどさ、なんか、他のが飲みたいなーって気分?」
「そう、なの?」
「そ。そうなの。じゃあ、スンマセン、嵐さん。オレ、ちょっと席外します」
「ああ」

嵐くんが頷いて、新名くんも頷いて、わたしはというと首を傾げてしまっている。首を傾げたわたしに、新名くんがまるで目くばせするように、片目を閉じて見せた。――ま、まさか、“任せといて下さいね”ってこのこと?

思わず呆気に取られてしまったわたしを残して新名くんは行ってしまった。「はばたきミックスジュース、売り切れてないといいけど」なんてことを言いながら。はばたきミックスジュースの売ってる自動販売機って、確かここから結構あるんじゃ……。新名くんは、一体どれだけのあいだ席を外しているつもりなんだろう。

残されたわたしの隣りには嵐くんがいる。二人きりになって、急に緊張してきてしまった。最近は三人でいることが多くて、こうして二人きりになることは少なくなってしまっていたので。でも、一年の頃は違ったのにね。あの頃はまだ柔道部は同好会で、いつも放課後は嵐くんと一緒に柔道部の練習をしていた。……懐かしいな。

「嵐くん」
「何だ?」
「桜、満開だね」
「……ああ。だな」
「あの時も、満開だった」

嵐くんの視線を横顔に感じた。補足するように言葉を続ける。

「一年の頃。校門の前で、嵐くんが声をかけてくれた時」

高校に入学して、本当にすぐの頃のことだったと思う。入学式の日に満開だった桜がまだ散らないまま枝に残っていた。桜吹雪と形容したくなる花霞の中、嵐くんは柔道部の部員を募っていた。そうして、声をかけられた。マネージャーにならないか、と勧誘された。

「あの日も、桜が満開だったね」
「そうだったか?」

嵐くんは首を傾げている。しばらくして、「ああ」と小さく頷いた。

「そうだったな」
「覚えてるの?」
「まあな」

そう言って口角を上げると、嵐くんは手を伸ばした。突然のことにビックリして思わず目を閉じてしまいそうになった。嵐くんの右手がわたしの頭の上辺りをかすめた。

「髪に桜がついてた。今みたいに」

見せつけるように、指先でつまんだ桜の花びらを見せてくれた。例の“悪い顔”、ではないけど、悪戯っぽい顔になっていた。

「も、もう……!」

声を上げたら、目を細めて笑われてしまった。嵐くんは目を伏せるようにして話し続けた。

「覚えてる。あの日から柔道部が始まったようなもんだ」
「嵐くん……」
「最初は俺一人だった。それが、おまえがマネージャーになって二人に増えた。新入生も増えた。今じゃ、部室まである、れっきとした部だ」
「そうだね……」

あれから、もう二年。二年のあいだに、いろいろなことがあった。たった二人だった柔道部も、大迫先生が顧問になってくれて、嵐くんの言うとおり今はもう、れっきとした部活動だ。


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