フリリク企画 | ナノ
のぼせる-2-







その日は休日で、あかりと連れだって水族館まで出かけた。

一通り館内を巡り終わった頃には、朝の晴天はどこへやら、水族館の入り口越しに覗いた空は、今にも降り出しそうな灰色の雲で覆われていた。帰り道の途中でついに降りだした。その頃にはもう、傘を買いに行けるような店も辺りにはなくて、雨に降りこめられるままアパートまで走った。結果、二人そろってずぶ濡れの濡れネズミだ。

そんな中、あかりが『一緒に風呂に入らない?』なんて言い出した。普段なら、間違ってもこんなことは口にするヤツじゃない。高校を卒業して、告白もして、曲がりなりにも、“付き合っている”にも関わらず、あかりとは何故かそれらしい空気にならなかった。

これじゃあ、高校の頃と同じじゃないかと頭を抱えなかったといえば嘘になる。……でも、焦らなくてもいいかな、とも思っていた。ゆっくり関係を育んでいけたら、それでいいんだ。

……そんな俺の殊勝な想いをだな、こいつはあっさりと翻弄してくれる訳だ。流石、どこぞの誰かから“天然小悪魔”なんて恐ろしいあだ名を付けられていただけある。


「流石だな、天然小悪魔……」
「何のこと?」


きょとんとした顔で見上げてくる。


「気にすんな。つーか、一緒に風呂って、何のつもりだよ?」
「うん瑛くん、さっきからすごく寒そうにしてるでしょ。早くお風呂に入らないと風邪引いちゃうよ?」


ああ、なるほど。純粋に心配してくれてる訳だ。なるほど、なるほど。やましい思いをしてるのは俺だけって訳だ。


「いいよ別に。これくらいじゃ風邪なんか引かないし」
「でも、唇真っ青だよ」


ひんやりと冷たい指先が軽く唇に触れた。指先に隠されてぼやけた視界越しに、黒目がちな目が見上げていた。雨に濡れたせいなのか、きらきらと光沢を放っていて、不覚にも綺麗だと思った。……つーか、俺以上に冷え切ってる癖して。指先が触れて分かった。人の心配してる場合じゃないだろ。


あと、迂闊過ぎると思う。いくら無自覚でも、こんなの、煽ってるようなものだ。


「……分かった」


冷え切って冷たくなっているあかりの手を取る。そのまま引いて、玄関先から部屋の中へ移動する。脱衣所兼洗面所まで連れて行って立ち止まった。まだ湯船にはお湯はたまり切っていないけど、二人温まる分には十分だと思う。


「あ、あの、瑛くん?」


今頃になってあかりが慌てたような声を上げている。……遅いんだよ、おまえは。今頃気がつくなんて遅すぎる。


「わ、わたし、やっぱり後で入ろう、かな?」
「何言ってんだよ。おまえだって体冷えてるだろ」
「ううん! 何か熱くなってきた気がするよ!」
「気のせいだから。冷えてるから。風邪引くだろ。ほら、一緒に入るぞ」
「瑛くん、笑顔が怖い!」
「失礼なヤツだな。ほら、おまえも濡れた服脱げよ」
「!? めめめめ目の前で脱がないでよぉぉぉ!」
「って! はたくな! ってか今更だろ!」
「今更じゃないもん!」


というか、このままだと本当に風邪を引きそうだ。あかりだって早く濡れた服を脱がないと寒いだろうし。ボレロのリボンに手をかけたら悲鳴を上げられた上にまた突き飛ばされた。しかも悲鳴が「ぎゃー」だった。色気というものが全然ない。


「瑛くんの変態バカエッチ!」
「バカ、俺はおまえが風邪を引かないようにと思ってだなあ……!」
「じ、自分で脱ぐから!」
「ほお。じゃあ、どうぞ」
「……あ、やっぱ後で……」
「往生際が悪い。言いだしっぺはおまえだろ」
「や、やだ! 自分で脱ぐから! 瑛くんはどうぞ自分の……待って待って待って脱がないで、きゃー!」
「どっちだよ」




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